研究課題
中枢神経系の損傷による運動機能障害が、残存するシステムによって代償されるメカニズムについて、分子からシステムレベルに至る統合的理解を目指す。マカクサルを用いた行動学および脳機能画像解析(PET解析)により、第一次運動野(M1=皮質脊髄路を主に投射する領域)を損傷した後に手指の把握運動が回復すること、その背景に大脳皮質運動関連領域(特に腹側運動前野【PMv】)による機能代償があることが明らかにされた。すなわち、損傷を受けた経路自体が再生しなくても、直接的な損傷の影響を免れた大脳皮質運動関連領域が代償的に機能することにより、運動機能が回復すると考えられる。しかし、このような機能代償においてどのような神経回路が新たに構築されるのか(経路レベルの変化)については不明である。本研究ではM1損傷マカクサルの機能代償領域(PMv)で新たに生じる代償経路の構造変化を脳機能画像解析(拡散テンソル画像解析)及び解剖学的トレーサー解析を用いて検証した。拡散テンソル画像解析の結果、M1損傷後にPMvから小脳核へと向かう出力経路に顕著な変化が見られた。解剖学的トレーサー解析の結果、M1損傷後の機能回復個体ではPMvから小脳核(特に室頂核 : FN)への投射が観察されたが、健常個体では観察されなかった。これらの結果は、M1損傷後に新たに形成されたPMvからFNへと投射する経路がM1損傷後の運動機能回復に寄与することを示唆する。本研究成果は、脳損傷後の機能代償領域(PMv)から投射するマカクサル皮質下投射ニューロンの変化を世界で初めて示したものである。本研究成果とこれまでの行動・脳領域レベルでの検証から得られた知見とを統合することにより、損傷後の可塑的な変化に対するレベル縦断的な理解につながる。さらに本研究成果の発展により、脳損傷後の機能回復を促進させるための新たな手法の開発が期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究ではM1損傷マカクサルの機能代償領域(PMv)で新たに生じる代償経路の構造変化を脳機能画像解析(拡散テンソル画像解析)及び解剖学的トレーサー解析を用いて検証した。その結果、脳損傷後の機能代償領域(PMv)から投射するマカクサル皮質下投射ニューロンの変化を世界で初めて示すことが出来た。国際誌への投稿には未だ至っていないが、世界初の成果は出すことが出来たため、『②おおむね順調に進展している』と判断した。
本研究結果はPMvからFNへ投射する経路がM1損傷後に新たに形成されることを定性的に示したものである。今後は3次元定量解析を用いて上記結果を定量的に検証し、これらの成果を国際誌へ投稿する予定である。
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PLOS ONE
巻: 8(5) ページ: e65701
10.1371/journal.pone.0065701