研究課題/領域番号 |
12J01535
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
原渕 祐 北海道大学, 大学院・総合化学院, 特別研究員(DC2)
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キーワード | DNAの光安定性 / DNA塩基 / ab initio分子動力学法 / シトシン |
研究概要 |
DNAの紫外光に対する安定性は、皮膚ガンなどに対する防御機構として広く注目されている。DNAの光安定性においては、DNA塩基の超高速減衰過程が主の要因となっており、これまでに、高精度ab initio分子動力学(AIMD)法により、単分子DNA塩基シトシンの励起状態における動的機構を明らかにしてきた。 これまで研究対象とされてきたケト体シトシンに加えて、2009年に実験からその影響が示唆された互変異性体(イミノ体、エノール体)に関しても同様の計算を行った。また、シトシン置換体は、シトシン(720fs)、5-メチルシトシン(7.2ps)、5-フルオロシトシン(88ps)と、励起寿命が大きく異なる。そのため、これらのシトシン置換体についても同様に計算を行った。 AIMDシミュレーションから得られたケト体シトシンの減衰曲線は、過渡吸収スペクトルの実験値と非常に良い一致を示し、実験から得られた減衰が、励起状態から基底状態への無輻射失活に対応することを示した。同様の計算から、シトシン互変異性体の励起寿命がイミノ体<ケト体<エノール体の順に長くなることが明らかとなった。また、実験から予想されていた光異性化反応について反応障壁を調べたところ、比較的障壁が高く、励起寿命への関与は小さいことが予測された。シトシンに比べて約100倍長い励起寿命が観測されている5-フルオロシトシンについてもAIMD計算を行ったが、シトシンと同程度の励起寿命が得られた。基底状態最安定構造のエネルギーの比較から、それぞれの互変異性体の存在が励起寿命に影響を与えている可能性を示した。この内容について、現在学術誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
QM/MM法を導入した励起状ab initio分子動力学法の欄発は、すでに実際の系に適用できる段階であり、研究の進捗状況としてはおおむね研究計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
DNA二重らせん構造へとQM/MM励起状態AIMDシミュレーションを適用し、その結果の解析から、DNA二重らせん構造の超高速光励起緩和の要因となる反応機構を明らかにする。また、励起寿命が異なると報告されている、塩基配列の異なるDNA二重らせん構造に対しても同様の計算を行い1塩基配列が励起寿命に与える影響やその機構について明らかにすることで、DNAの光安定性を決定する因子へと迫る。紫外光に対して安定な塩基配列・不安定な塩基配列を系統的に整理し、光損傷の起こりやすい塩基配列を理論的に予測する。
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