DNAの紫外光に対する安定性は、皮膚ガンなどに対する防御機構として広く注目されている。DNAの光安定性においては、DNA塩基の超高速減衰過程が主の要因となっており、これまでに、高精度ab initio分子動力学(AIMD)法により、単分子DNA塩基であるシトシンの励起状態における動的機構を明らかにしてきた。AIMDシミュレーションから得られたケト体シトシンの減衰曲線は、過渡吸収スペクトルの実験値と非常に良い一致を示し、実験から得られた減衰が、励起状態から基底状態への無輻射失活に対応することを示した。 本研究では、ケト体シトシンに加えて、実験から励起寿命の変化が示唆された互変異性体(イミノ体、エノール体)に関しても高精度AIMD法と高精度電子状態計算を適用し、その励起寿命の変化機構を解析した。同様の計算から、シトシン互変異性体の励起寿命がイミノ体<ケト体<エノール体の順に長くなることを明らかにした。また、実験から予想されていた励起状態における光異性化反応について反応障壁を調べたところ、比較的障壁が高く、励起寿命への関与は小さいことが予測された。基底状態最安定構造のエネルギーの比較から、それぞれの互変異性体の存在が励起寿命に影響を与えている可能性を示した。本年度は、この結果について学術誌に発表した。 続く研究として、光反応の解析手法の開発にも着手した。光反応の解析では、最小エネルギー円錐交差点(MECI)の情報が非常に有用となる。しかしMECI構造は分子の安定構造とはかけ離れており、推定が一般に困難である。そこで、円錐交差自動探索法と、スピンフリップ(SF)TDDFTを結合し、精度をそれほど落とさずにコストを大幅に削減するMECI探索手法を開発した。開発した手法をブタジエンに適用し、多数のMECI構造を求めた。この内容について学術誌に発表した。
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