研究概要 |
脱フュージョンの技法とは, 自らが生成した思考を世界に関する字義どおりの真実として捉えるのではなく, 思考はただの思考に過ぎないという見方の体験的理解を目指すものであり, 不安障害などの精神疾患に対する従来の心理療法的技法の効果を増幅することが期待されている。近年, 臨床場面において, 脱フュージョンの技法に対する関心が高まりつつあるという一方で, その効果を支持する実証的研究はほとんど実施されていない。特に, これまで, 脱フュージョンの技法の効果測定法が確立されていなかったため, 先行研究において治療効果に関する知見が一貫しておらず, 実証的研究が限られているという問題があった。そこで, 採用2年度目となる本年度は, 脱フュージョンの治療効果を適切に測定するための効果測定法の開発に焦点を当て, 実験研究の実施および研究成果の発表を行った。その結果, 行動的アセスメントツール"Implicit Relational Assessment Procedure"が, 脱フュージョンの効果を測定する上で, 有用であることが示唆された。また, 前年度の研究成果をふまえ, 脱フュージョンの作用メカニズムの記述が可能な実験課題を改良し, 脱フュージョンの獲得プロセスの記述および促進要因のさらなる検討についても取り組んだ。その結果, 脱フュージョンの促進においては, 臨床上問題となるような回避行動の低減を目的として, 問題となる思考や感情を一貫した視点から捉える体験を促進することが重要であり, その具体的な方法として, 階層的な視点の獲得が重要であることが示唆された。一連の研究結果から, 脱フュージョンの技法の臨床的有用性についてのエビデンスが示され, 従来の心理療法的技法の改善に関する示唆を得られたことから, 学術的意義も大きい研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度計画されていた実験をすべて実施し, その研究成果について, 国際的学術雑誌に第一著者として論文を発表した。国際会議では, 口頭発表による研究成果の発表を行った。研究の進捗状況およびその成果の公表という観点から考え, 予定どおり順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の採用期間中の研究成果をふまえ, 今後は, これらの研究成果について, 臨床群を対象として, 実験研究で得られた知見の追試を行い, 当該領域におけるトランスレーショナル・リサーチ(基礎研究から応用分野におよぶ研究)の展開を目指す必要がある。その一環として, iPad等の最新技術を用いて, さまざまな臨床現場で汎用性の高い心理臨床的アセスメントツールを開発することが望まれる。今後は, より実践的な観点から研究を発展させていくことが必要である。
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