研究課題/領域番号 |
12J01550
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
清水 将太 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 比較発生学 / 昆虫鋼 / 多新翅類 / ハサミムシ目 / 胚発生 / 後胚発生 / 保育行動 / 系統分類学 |
研究概要 |
本研究では、多新翅類ハサミムシ目全9科の発生学的比較を行い、本目の発生学的グラウンドプランを再構築し、時に新翅類(多新翅類+準新翅類+完全変態類)全体で議論される本目の類縁に関し比較発生学的視点から議論することを目的とする。本研究代表者はこれまで日本・マレーシアでKarschiellidae科を除く8科を確保し研究を行ってきた。 原始的なハサミムシ類の生活史:ハサミムシ目の下等群、原始ハサミムシ類(3科)のムナボソハサミムシ科Cranopygia sp.、Echinosoma sp.、Parapsalis infernalis、そしてより派生的な一群の高等ハサミムシ類(6科)の最原始系統群と目されるApachyidae科のApachyus chartaceusについて検討した。Cranopygia sp.とEchinosoma sp.は他のムナボソハサミムシ科の知見と同様に卵は固着性、保育は単純だが、Parapsalis infernalisは非固着性卵、保育は入念であり、高等ハサミムシ類のこれまでの知見と共通する。しかしApachyus chartaceusは高等ハサミムシ類6科で唯一保育は単純で、幼虫齢数は6と多く(今までの高等ハサミムシ類の最多記録:5)、これらの特徴はParapsalis infernalis以外の原始ハサミムシ類と共通する。 胚発生:当該年度は今まで未検討の胚発生ステージを把握できた。DAPI染色胚を蛍光顕微鏡で観察した結果、ハサミムシ目は1)一対の側板(卵表層の細胞集中域)の融合による胚形成、2)胚のタイプは、後方の体節形成をともなう胚伸長を行う半長胚型、3)卵表層での胚伸長、4)胚が伸長後に卵黄内に沈む陥没型の胚定位様式、5)胚反転期に姿勢が大規模に変わることを明らかにした。 ハサミムシ目の系統学的位置:先行研究では、本目は全体節が同時に形成される長胚型、胚定位様式は卵黄内に胚が沈まない表成型など、完全変態類との共通点が指摘されていた。しかし、本研究により理解が修正され、特に上記1)、3)が多新翅類の固有派生形質と見出された点は意義深い。 目内の系統学的考察:各科の比較から、ムナボソハサミムシ科の多系統性、Apachyidae科の分岐はムナボソハサミムシ科Parapsalis属より古いことなどが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、ハサミムシ目全9科中8科を用いて詳細な発生学的検討を行うことにより、ハサミムシ目のグラウンドプランを再構築することができた。それをもとに新翅類内での比較を可能とし、それにより、発生学的側面においてもハサミムシ目が従来通り多新翅類の一員であり、多新翅類の陥没型の胚定位様式がハサミムシ目を含めた多新翅類の固有派生形質であるということを見出すことができた。また、8科間の比較により目内での発生学的な進化的変遷を理解することができた。このようにハサミムシ目の系統学的処遇と目内の系統学的な議論を発展させることができた点で、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ハサミムシ目が多新翅類の一員であるということは、発生学的側面からも支持することができた。しかしながら、現在の発生学的理解では、ハサミムシ目は他の多新翅類10目それぞれと、モザイク状に発生学的特徴を共有しているために、目間の類縁の発展的な議論を行う必要がある。そのためには、今後更なる詳細、すなわち、TEM観察も含めて詳細な組織学的観察も行い、卵殻にある精子通過孔である卵門の微細構造や、内部形態および付属肢等の形態形成過程などを明らかにして、その問題にチャレンジしていきたい。また、多系統性が示唆されるムナボソハサミムシ科に関しては、屋久島に産するムカシハサミムシも確保して検討を行い、そしてアフリカにのみ産する希少な原始ハサミムシ類Karschiellidae科に関しては現地の研究者との情報交換を発展させ、材料確保と発生学的検討を実現したい。得られた成果は学会発表を行い、論文を投稿して公表する。
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