本研究では、多新翅類ハサミムシ全目9科の発生学的比較を行い、本目の発生学的グラウンドプランの再構築、そして時に新翅類(多新翅類+準新翅類+完全変態類)全体に及び議論される本目の類縁に関し、比較発生学的視点から議論することを目的とする。本研究代表者はこれまでに、Karschiellidae科を除く8科を確保し検討してきた。 当該研究年度は、ハサミムシ目の初期進化を理解するため、本目の下等な一群に着目した。検討には、本目の下等群(原始ハサミムシ類 : 3科)のムナボソハサミムシ科ケブカハサミムシの一種魚Echinosoma sp. (以下ケブカ)とクロツヤハサミムシParapsalis infernalis(以下クロツヤ)、より派生的な一群(高等ハサミムシ類 : 6科)の最原始系統群と目されるApachyidae科のApachyus chartaceus(以下アパキウス)や、ときにApachyidae科との類縁が示唆されるAllostethus indicum(以下アロステサス)(オオハサミムシ科)を用いた。 幼虫の齢数はケブカが7、クロツヤが5~6、アロステサスが6である。アパキウスは昨年度確認した6に加え7も認められる。クロツヤの最少数はほかの原始ハサミムシ類(6~9)より少なく、より派生的な状態である。アパキウスとアロステサスはほかの高等ハサミムシ類(4~5。アロステサス以外のオオハサミムシ科は5)より多く、より原始的な状態である。クロツヤは本目で唯一、羽化後に後翅が脱落する。 アロステサスは粘着性の無い卵を産み、卵や1齢幼虫を丹念に保育する。これらはクロツヤやApachyidae科以外の高等ハサミムシ類と共通し、派生的な状態である。 これまでの研究を総括し、系統学的考察を行った結果、原始・高等ハサミムシ類各群の単系統性は認められないことが示された。
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