自己に関するネガティブな持続的認知である反芻は,抑うつやうつ病のリスクファクターであることが知られている。過去に経験した嫌な出来事や,ネガティブな気分状態について過度に考え込んでしまうことによって,うつうつとした気分が持続し,抑うつ症状が発生するとされている。前年度までの研究では,日常場面における反芻の実態と機能を明らかにし,抑うつおよび関連疾患との関係を探るとともに,どのような日常的活動が反芻的思考を阻害しうるのかを検討した。日常場面において生起する反芻的思考を測定し,それがいつ・どのような状況で生じているのかを検討するとともに,心身への影響を調査した。 一連の研究によって,反芻は気分状態を悪化させるだけでなく,身体的覚醒を高めるなど生理的な影響もあることを確認し,反芻が心身の不適応を引き起こすメカニズムに示唆を与えた。
これを踏まえ本年度は,反芻の基礎的なメカニズムにフォーカスを当て,認知的な介入の基礎を探ることを主な目的とした。認知バイアス修正法(Cognitive bias modification)と呼ばれる手法を用いて,反芻に関わるとされる認知機能および感情情報処理への介入を行った。1週間程度の訓練の結果,ネガティブな情報処理に関わる認知機能の改善が見られ,その有効性が示唆された。
以上の研究結果は,反芻と抑うつに関わる現象学的・病理学的な理解を促進し,抑うつおよび反芻に対する介入と予防法の基礎となりうると考えられる。
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