塩基性低分子ペプチドによる血管機能改善作用には、カルモジュリンシグナルを介したCa2+関連シグナル系の遮断が関わっている可能性を見出してきた。血圧関連臓器に局在するカルモジュリン‐Ca2+系を制御することにより、血管系疾患(動脈硬化、心肥大、腎不全)を予防する可能性がある。さらに、カルモジュリン‐Ca2+系は炎症反応にも関与する報告があることから、塩基性低分子ペプチドは血管だけではなく、ほかの臓器においても炎症反応を抑制することが期待される。そこで、今年度は塩基性低分子ペプチドの抗炎症作用に関する詳細な知見の獲得を行った。 1.ペプチドのカルモジュリン‐Ca2+複合体形成阻害作用の解明 これまで、塩基性ペプチドはカルモジュリンキナーゼII(CaMKII)を阻害することを明らかにしてきた。そこで、CaMKII活性化因子であるカルモジュリン-Ca2+複合体に着目し、ペプチドによる複合体形成阻害作用の実証を試みた。Ca2+特異的蛍光プローブFluo-4を用いてカルモジュリン-Ca2+複合体形成量を評価できるアッセイ系を構築し、ペプチドTrp-HisおよびHis-Trpは複合体形成を阻害することを明らかにした。さらに、水溶液系分子動力学シミュレーション法を用いたin silico解析の結果、Trp-HisおよびHis-TrpはカルモジュリンのCa2+結合部位と水素結合を介して安定的な複合体を形成することを初めて明らかにした。 2.塩基性ペプチドを含む食品タンパク質の腸管炎症予防作用の実証 塩基性アミノ酸を多く含む卵白タンパク質オボトランスフェリンを腸炎症モデルマウス(デキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎マウス)に投与した結果、体重減少の抑制、クリニカルスコアの改善、大腸短小化の抑制が確認された。さらに、オボトランスフェリンは大腸における炎症性サイトカインの産生を抑制していた。
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