研究概要 |
1980年代後半以降,日本経済はグローバル化を迎え,国内産地は激しい国際競争の進展に直面している。特に日用消費財は安価で豊富な労働力を保有する東南アジアへ急速に生産拠点を移行してきた。一方で,企業間の近接立地に依拠した受発注連関もまた業種や生産場面によっては不可欠である。情報伝達技術が発達した現代においても,数値化や言葉で説明することが困難な知識や技術の共有・伝達においては企業間の直接接触に依存するからである。また,海外生産拠点との間における言語,民族的な文化,価値観といった文化的な距離を克服する必要があるとされている。このような視点のもとで,先進国の大都市工業集積を中心とした生産の地域間分業を分析し,企業間連関と生産の空間構造とを明らかにすることによって,国際分業化における大都市工業地域の位置づけと役割を再検討することを目的とする。 調査内容としては,ニット製既製服産業を取り上げ,東京城東地域に立地するニットメーカーが受発注先とどのような意思疎通方法や関係性のもとで製品の生産を行っているかを明らかにした。ニットメーカーはアパレルメーカーと製造拠点との問の結節点であり,メーカーに対するデザイン補助や素材の提案,各種生産拠点を取りまとめての生産管理を行っている。また,ニットメーカーが発注している製造拠点には東京城東地域内,地方,海外があり,これらの外注先は製造工程や製品などによって使い分けられ,複雑な分業構造が形成されている。城東地域内への発注は,サンプルやロットの少ないもの,納期が短いものなどであった。また,糸や編地の発注に関しては,城東地域内に立地する資材商が重要なコンバーターとなっている。国内地方工場は海外工場よりも賃金や規模の面で不利なものの,長期的な取引によって構築された関係性や,メーカーが直接工場を訪れて加工の指示や確認などをしやすいといった面で重視されている。東京のニットメーカーへの調査だけでなく,長野県や新潟県といった地方工場や,上海の工場,また上海工場との結節点である東京のニットメーカーの上海事務所へも視察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東京,長野,新潟県,上海にて必要なデータをおよそ収集し,一定程度分析を進めることができ,来年度中の研究達成が充分に見込めるため。
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