研究課題/領域番号 |
12J01601
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小路田 俊子 京都大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 弦の場の理論 / 多重ブレイン解 / Gauge Invariant Observable |
研究概要 |
これまでCubic String Field Theory (CSFT)における多重ブレイン解の構成、特にKBc部分代数を用いた解の構成に取り組んできた。この構成法は世界面のある種のハミルトニアンであるKをK→1/Kに変えてもK, B, cで書かれた相関関数は不変であるという性質(inversion symmetry)を基本に据えたものである。つまりK=0とK=∞は本質的に等価なのだ。この強力な性質の帰結としてCSFTの正準エネルギーはinversionsy㎜etricである。局所場の理論においてエネルギーにはネーター電荷によるものと、重力結合から読み取るという二つの定義の仕方があった。弦の場の理論でも重力結合として開弦が閉弦へ転化するプロセスを表すGauge Invariant Observable (GIO)と呼ばれるものを考える。するとGIOではinversion symmetryが破れているという問題があった。GIOはK=∞の特異性の効果を感知することができない。つまりK=∞の特異性からの寄与を持つ多重ブレイン解に対しては、正準エネルギーとGIOは一致しない。ところがBaba and Ishibashi [arXiv : 1208.6206]において、正準エネルギーとGIOが等しいという証明がなされた。この矛盾を解くため、我々の解にっいて彼らの証明を追ったところ、重要な項の見落としが発見された。その寄与を考慮すると正準エネルギーと等号で結ばれるのは、GIOに新たな項が足されたものであることが分かった。GIOが弦の中点で重力結合をしているのに対して、新たな項は弦の端点で結合しているものとなっている。そしてGIOがK=0の特異性を勘定し、新たな項がK=∞の特異性を勘定している。GIOと新たな項の和こそ重力結合と解釈するべきであり、この和には自明にInversion不変性が成り立つのである。更にこれまで主張されてこなかったがGIOでは幅ゼロの世界面に対してある種の計算(sz計算)を行うと不定性が存在することが分かった。しかし両方の和を考えればその不定性が互いの間でキャンセルし、全体はよく定義された量あることも強調しておきたい。GIOには非常に強いゲージ不変性が存在するが、新たな項には一見するとそのような対称性はない。しかし正準エネルギーに要求されるのは運動方程式を用いた不変性であり、新たな項は正準エネルギーを不変に保つ変換に対してまちろん不変となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予想していなかったK=∞の特異性やInversion symmetryなどの結果が出てきた点においては進展があったと感じる。CSFTをCS理論との類似性により解析を行っているが、実際にどこまで類似性が妥当なのかは未だ分からない。CSFTにおけるwinding数がどのような写像であるのか直感的理解は難しい。
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今後の研究の推進方策 |
多重ブレインの古典解については見通しの良い構成法ができた。そこで次はこの解の周りの物理的励起を調べる段階であると考える。タキオン凝縮解において開弦の自由度が消えていたのはホモトピー演算子が存在するからであるが、ホモトピー演算子は形式的にはどの解においても構成可能である。実際にはタキオン真空以外では開弦が存在するはずなので、ホモトピー演算子は病的なものであると考えられる。K空間の特異性がこの性質を説明するのではないかと考えて研究を行うつもりである。物理的励起の解明は弦の場の理論が本当に非摂動論的定式化となっているかというのを調べる上でも重要である。一枚のブレイン上の弦の自由度から始めて、複数枚のブレインの自由度(Chan-Paton因子)を表すことができるかどうかはオフシェルの定式化が出来ているかに関わっている。 開弦の場の理論における閉弦の自由度について研究を行いたい。タキオン真空解は開弦の自由度はないものの、閉弦の自由度はまだ残っているはずである。その閉弦すら消えてしまった真の真空は存在するのだろうか。また存在するとしたらどのような物理を記述するのだろうか。非常に関心があるのでこの問題についても考え始めようと思う。
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