研究課題/領域番号 |
12J01626
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
芦田 康将 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 磁気プラズマセイル / HPC / Full-PIC / Flux-Tube / 小型磁気圏 |
研究概要 |
本研究で取り扱う磁気セイルは高速のプラズマ流である太陽風の運動量を人工磁気圏(磁場の帆)によって推力に変換する。また磁気プラズマセイルでは宇宙機からの少量のプラズマ噴射によって帆を広げ、推力増加を図る。今年度の研究では、前年度から取り組んでいた磁気セイル推力の定常計算モデル(Flux-Tube法)を用いた推力特性の解析を実施し、磁気圏サイズが数10km~数100kmまでの磁気セイルの推力特性を明らかにした。また過去の解析手法(Hybrid-PIC法)に比べて約10倍の高速化を実現し、成果を論文化した。また、非定常現象まで含めた磁気プラズマセイル宇宙機の推力特性を明らかにするために、プラズマ粒子シミュレーション(Full-PIC法)を利用した解析を実施した。まず、計算負荷の小さな2次元Full-PICシミュレーションの実施によって、小型磁気セイル・磁気プラズマセイル(磁気圏サイズ数100m~数km)の基本的な推力特性の取得を行い、3次元シミュレーションに向けて推力増加の効率が高いプラズマ噴射パラメータの選定を行った。計算には京都大学やJAXA所有の大型計算機を利用し、磁気プラズマセイルの推力増加が、噴射プラズマのエネルギーに依存することを明らかにした。今年度の中盤においてはこの2次元解析の成果を論文化し、現在査読中である。 並行して負荷分散によって大規模並列化が可能な3次元Full-PICコードの開発を行った。2次元解析に比べて3次元解析で必要となる計算資源は数10倍から数100倍となるため、OpenMPとMPIを併用するハイブリッド並列モデル適応することで、従来コードに比べて高速かつ高いスケーラビリティを実現することに成功した。その結果、本コードを用いた研究課題は京コンピュータ若手人材育成課題に課題採択され、今年度後期からは、大型計算機として京コンピュータを利用することで研究の進捗を加速させた。3次元Full-PICシミュレーションによる解析では、3次元解析ではいままで明らかにされていなかった小型実証機スケール(磁気圏サイズ数100m~数km)の磁気セイルの推力が搭載コイルの磁気モーメント、太陽風密度、太陽風速度にそれぞれ比例することを明らかにした。また、この推力特性は先のFlux-Tube法の解析結果となめらかに接続し、磁気セイルの推力特性式が完成した。これにより小型磁気セイルの軌道設計やミッション検討が可能となった。これらの成果はすでに論文化し現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シミュレーションコードの高度化の成功と京コンピュータに利用によって、大幅に進展し、すでに24年度~25年度にかけて実施する予定であった3次元解析をほぼ完了することができている。その結果、推力特性モデルの構築と関連する論文の投稿を行い、研究は順調に進捗している。一方で当初予定していたシミュレーションの内部境界条件として実験的に取得した超電導特性を組み込む作業は、実験装置の故障等により滞っている。今後、シミュレーションにより具体的な条件をかした解析を実施していく必要が有るが、全体としてはおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析の結果から得られた推力特性では、磁気プラズマセイルの既存推進システムに対する優位性が十分には明らかになっていない。今後の研究では、主に磁気プラズマセイルの推力増加と電力効率の改善を図ることを目的とした解析を行い、磁気プラズマセイルが既存推進システム以上の性能を発揮できることを目指す。そのためには、噴射プラズマ条件を最適化していく必要があるが、これまでの解析により、高密度・低温度のプラズマ噴射が有効であることが推測されている。しかし、計算負荷などの制約からこれまでのシミュレーションコードでの解析は困難であり、新たに粒子シミュレーションと流体シミュレーションの結合が必要となる。
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