研究課題/領域番号 |
12J01637
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
牲川 菜月 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | オストワルド段階則 / epitaxy-mediated transformation |
研究概要 |
オストワルド段階則(Ostwald,1987)に従う結晶生成過程に関する理論的研究を完成させた。オストワルド段階則によって先に生じた準安定相の表面に、後から安定相が不均質核形成する場合、準安定相結晶の対称性に支配された安定相の多結晶集合体が形成される。この現象は、様々な系において報告されているが、普遍的な解釈は得られていない。本研究では、準安定相の形成後の過程について、従来のdirect transformation、solvent-mediated transformationに加えて新たに、準安定相の表面上に安定相が核形成することで起こる、epitaxy-mediated transformationを提唱し、その条件を明らかにした。 その結果、準安定相が晶出するためには、準安定相の表面エネルギーが小さいこと、結晶の異方性が小さいことに加え、高過飽和度が必要であることが分かり、これらの条件を表す具体的な数式を導いた。また、準安定相に安定相が核形成するためには、安定相二次元核の表面エネルギーが小さいこと、結晶の異方性が小さいことが必要なことが具体的な条件式とともに求められた。不均質核形成では、界面エネルギーが低くなる結晶方位が優先的に選択される。 さらに、上記の理論的研究の検証実験として炭酸カルシウムの合成を行った。炭酸カルシウムにおいては3つの多形、calaite、aragonite、vateriteに加え、Miyake and Kawano(2010)のシミュレーション結果から、六方晶系aragoniteの存在が示唆されている。現実にはこの物質は確認されていないが、天然に産出するaragoniteの六角柱状結晶は、六方晶系aragoniteを核としてその上に通常のaragoniteが核形成して形成されたとも考えられる。 実験ではvateriteの単結晶とaragoniteの単結晶、多結晶体が得られ、多結晶体は安定性の低いvateriteの上に比較的安定なaragoniteが核形成したものと分かった。これによりepitaxy-mediated transformationの実証が成功したといえる。 一方で、天然の六角柱状aragoniteは、aragoniteのa軸を放射状に配置した多結晶体であり、実験で得られた多結晶体とは明らかに異なる。従って、vateriteとは結晶構造・表面構造が異なる六方晶系aragoniteが存在し、六角柱状aragoniteの核となった可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オストワルド段階則に従う結晶化における、多結晶体生成の一般的な解釈を目的に研究を行い"epitaxy-mediated transformation"という新しい概念を導入して普遍的理論を完成させた。これにより本研究の第一目標である理論的研究の完成に到達した。理論の完成後は炭酸カルシウムの合成実験を行って、理論を支持する実験結果を得ている。最終目標である六方晶系アラゴナイトの存在の検証はまだ達成されていないが、長期の実験時間を見込んだ実験を既に開始しており、今後の成果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終目標である六方晶系アラゴナイトの存在の検証を実現するため、炭酸カルシウムの合成実験を継続して行う予定である。
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