エビタキシ媒介相転移(epitaxy-mediated transformation)という相転移過程を新たに提唱し、それが起こるための条件とその結果生じる結晶組織について理論的に議論した。この相転移により準安定相の対称性に支配された安定相の多結晶体や貫入双晶が形成されることを示し、多結晶体の形成過程に対して統一的な説明を与えた。一方で、安定相の不均質核形成が準安定相の固体内相転移を促進しうることから、結晶組織のみからはエピタキシ媒介相転移を経て形成されたことが分からない場合があることも明らかにした。 実験的研究として炭酸カルシウムの溶液合成実験を行い、炭酸カルシウムの多形どうしの相転移過程を調べた。特に、安定性の低い相であるvateriteから比較的安定な相であるaragoniteへのエピタキシ媒介相転移を初めて確認した。実験で得られたaragoniteは放射状の多結晶体や貫入双晶を形成しており、理論的に予期されたエピタキシ媒介相転移によって形成される結晶組織の妥当性も示された。得られた結晶を透過型電子顕微鏡で観察すると六方晶系のような組織が見られた。これは未だ確認途上であるが、六方晶系aragoniteの存在を示す証拠となる可能性がある。 本研究にて提唱されたエピタキシ媒介相転移は、これまで知られてきた固体内相転移と溶液媒介相転移とともに普遍的な相転移過程として翻識されるべき現象である。エピタキシ媒介相転移によって形成される組織についても議論したことにより、実際に合成された試料や天然に産出する鉱物の形成過程を推定することが可能になった。さらに、地球上に広く存在し、生体内鉱物としても近年注目を集める炭酸カルシウムにおいてエピタキシ媒介相転移を確認したことは、今後行われるであろう様々な研究にとって意義のある発見と思われる。
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