研究課題/領域番号 |
12J01644
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
橋本 直樹 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 軟体動物 / 二枚貝類 / 卵割 / 掘足類 / bHLH / 貝殻形成 / 形態進化 / 足糸 |
研究概要 |
軟体動物は螺旋卵割を行い、その分裂方向や不等分裂の極性はよく保存されている。しかし二枚貝類の貝殻始原細胞と考えられているX割球は典型的な螺旋卵割のルールを無視した特徴的な分裂パターンを示す。この特徴的なX割球の分裂パターンの進化的変更は二枚貝の「2枚の貝殻」の獲得という形態進化において重要なイベントであったと考えられている。この二枚貝特有の卵割パターンを制御するメカニズムを解明するために、将来貝殻腺に分化する二枚貝のD割球を単離しその後の分裂パターンを観察した。その結果単離割球のみで二枚貝特有の卵割パターンが再現されたことから、二枚貝特有の卵割パターンは他の細胞に由来する外因性因子に依存せず、細胞内に存在するタンパク質の局在などによって制御されていることが示唆された。また単離したD割球はトロコフォア幼生に似た形態まで発生した。この幼生は足などの腹側の構造を欠いているが、蝶番も含めた貝殻構造は形成されていた。このことから二枚貝の貝殻構造はD割球の娘細胞に由来するという従来の仮説が確かめられた。 さらに二枚貝の卵割パターンの変更が進化的にいつ起こったのか検証するために、掘足類の卵割パターンを観察した。掘足類の卵割パターンは50年前に1例報告があるのみで、近代的手法により検証されていない。また未だ解明されていない腹足類一二枚貝一掘足類の間の系統関係を示唆する重要な知見も得られると考えられる。そこで掘足類の初期胚に蛍光色素を注入し、ライブイメージングによって卵割パターンを観察した。その結果、D割球の初期の分裂パターンが二枚貝と同様であることが確認された。 またアコヤガイにおいてbHLH転写因子の網羅的発現解析を行い、特定の組織や割球のマーカーになりうる遺伝子を多数発見した。これは今後二枚貝をはじめとする軟体動物の形態形成を理解するために行う発生学的研究に大いに役立つものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二枚貝の形態進化と卵割パターンの改変との関係を解明するために、初年度予定していた実験に関しておおむね予定通りに進展した。さらに近年の研究動向を踏まえたうえで掘足類を用いた実験を追加し、一定の成果を上げることができた。二枚貝の足糸形成と腹足類の蓋形成の比較に関しては、網羅的な遺伝子発現解析を行い、詳細に解析すべき遺伝子の候補を得た。以上のように、研究計画と異なる実験も行ったがおおむね予定通りに研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
近年次世代シーケンサーを用いた軟体動物の系統関係に関する大規模な解析が報告された。それに基づくと、二枚貝の形態進化を理解するためにも掘足類の卵割パターンについて研究する必要性が生じた。これについては初年度に実験を行い、本年度データを追加することで論文として発表できるめどが立った。掘足類の実験を除いては、研究計画に大きな変更はなく、今後も予定通りに遂行する予定である。
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