軟体動物は螺旋卵割を行い、その分裂方向や不等分裂の極性はよく保存されている。しかし二枚貝類の貝殻始原細胞と考えられているX割球は典型的な螺旋卵割のルールから逸脱し、分裂ごとに不等分裂の極性と分裂方向を変化させるという特徴的な分裂パターンを示す。この特徴的なX割球の分裂パターンの進化的変更は二枚貝の「2枚の貝殻」の獲得という形態進化において重要なイベントであったと考えられている。 前年度までに、二枚貝の特徴的な卵割パターンが単離した割球においても示されることを示した。この結果は二枚貝の割球は自身の分裂回数を数える機構を持つことを示唆する。本年度は、実験発生学的手法を用いて、分裂回数を数える機構の実体を明らかにすることに取り組んだ。具体的には第一卵割を実験的に等割にさせることで、割球のサイズを変化させ、細胞質/核の体積比または極葉細胞質の量が分裂回数の制御に関与するかどうか検証した。 正常胚のD割球系譜では、第三卵割は植物極側の娘細胞が大きく、第四卵割で反転する。等割させた胚において、24%のD割球系譜で第三卵割が等割に変化した。第一卵割を等割にさせたことで、4細胞期のD割球は正常胚に比べると小さくなっている。つまり核と細胞質の体積比が8細胞期の1D割球の状態に近いと解釈すれば、この結果は不等分裂の極性の逆転を示す第四卵割の表現型に近づいていると考えられる。 また等割させた胚は第二卵割においてそれぞれ不等分裂し、4細胞期では2つの大型の割球が存在していた。この2つの大型の割球は極葉細胞質を受け継いでいる。この2つの割球において、正常胚と同様に第四卵割時に不等分裂の逆転が見られた。これは、極葉細胞質に二枚貝の特徴的な卵割パターンを制御する因子が存在することを示唆する。
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