研究概要 |
本課題では、霊長類特異的な挿入配列由来の機能的非コードRNA(ncRNA)を介したエビジェネティック制御の解明とその普遍性の検証を目的としている。今年度は、生物種特異的な転写領域の網羅取得とncRNA発現を指標としたシスエレメントの同定において大きな進展が見られた。 チンパンジーとマウスのゲノム比較から、各生物種特異的挿入配列をプロモーター領域に持つ遺伝子数を概算した。その結果、チンパンジー特異的挿入配列をプロモーター領域に持つ遺伝子数は3,118個、マウス特異的なものは3,962個だった。この結果とdirectional RNA-seqを統合した解析から、チンパンジーは21.2%、マウスでは25,5%のプロモーター領域に存在する挿入配列からアンチセンス方向に転写されるncRNA(pancRNA)が存在することが分かった。pancRNAとmRNAの転写領域を調べたところ、タンパクコード遺伝子の転写開始点近傍では、pancRNAのアンチセンス転写とmRNAのセンス転写を明確に分ける境界点が数千存在すること、そのような境界点の9割以上はCpG islandと重なり、CCGリピートとCGGリビートが近傍の転写開始点上流と下流に有意に高く存在すること、を明らかにした。チンパンジーでもマウスでも同様の結果が得られたことから、哺乳類で保存された共通制御が存在していることが示唆された。 また、組織特異的pancRNAを持つ遺伝子はpancRNAの発現量と相関した発現を示すのに対し、ハウスキービング遺伝子には概してpancRNAをプロモーター領域に持っていなかった。以上のことから、pancRNAを介した共通原理の下で、動物種毎に異なる遺伝子スイッチ修飾が偽遺伝子挿入により生み出されていることが示唆された。現在、これらの結果を論文にまとめており、近日中に投稿する。
|