研究課題/領域番号 |
12J01649
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水上 雄太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 鉄系超伝導 / 不純物効果 / 電子線照射 / 磁場侵入長 |
研究概要 |
鉄系超伝導体BaFe_2(As_<1-x>P_x)_2の超伝導対称性を決定するために、電子線照射を用いた不純物導入により超伝導ギャップ構造の変化を研究した。ここで、BaFe_2(As_<1-x>P_x)_2は幅広い組成域で量子振動が観測されており非常に純良な系であることが知られている。従って、鉄系超伝導体において不純物効果を議論する上で適した系であると考えられる。また、電子線照射を用いることで試料に均一な点欠陥を導入することが可能である。これは、従来の元素置換による不純物導入と比較して、格子定数やキャリア密度の変化が比較的小さいと考えられる。また、この手法を用いる大きな利点として同じ試料に対して連続的に電子線を照射し続け欠陥量を系統的に増大させることが可能であることが挙げられる。本研究では、x=0.33と0.36の両組成の試料に電子線を照射しトンネルダイオード発振器を用いた磁場侵入長測定を行うことで欠陥量の増大に伴う超伝導転移温度(T_c)と超伝導ギャップ構造の変化を調べた。その結果、照射していない試料は温度に比例する振る舞いを示した。これは以前に報告されていたように超伝導ギャップにノードが存在することを反映した振る舞いである。しかしながら、点欠陥を導入すると熱活性型の温度依存性を示した。これは、ノードが消失しギャップが形成されているものと考えることができる。これらの振る舞いは両組成で観測された。このように不純物散乱によりノードが消失することは以前に理論的に予測されており、s波超伝導において偶発的なノードが存在している場合にはノードが消失する。この振る舞いは銅酸化物高温超伝導体で観測された磁場侵入長における不純物効果とは明らかに異なっており、鉄系超伝導体BaFe_2(As_<1-x>P_x)_2の超伝導対称性はd波超伝導対称性ではなく、s波超伝導対称性であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄系超伝導体において、その超伝導発現機構と密接に関係する超伝導ギャップ構造を解明することを目的とした実験が精力的に行われている。一部の物質においては、その超伝導ギャップにノードが存在することが報告されているが、このノードが対称性によって要請されたものであるのか否かは明らかではない。本研究で、鉄系超伝導体BaFe_2(As_<1-x>P_x)_2に電子線を照射し、不純物散乱によりノードが消失することを初めて明らかになった。これは、ノードが対称性によって要請されたものではないことを示している。 以上のように、本研究は順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
鉄系超伝導体BaFe_2(As_<1-x>P_x)_2において、磁場侵入長、熱伝導、NMR測定により低エネルギーの準粒子励起が存在することが確認されており、その超伝導ギャップにラインノードが存在することが報告されている。その超伝導ギャップ構造の詳細については、角度回転熱伝導率測定からはブリルアンゾーン端の電子面にループ状のノードが提案されている一方で、角度分解光電子分光測定からはブリルアンゾーン中心のホール面に水平なノードが提案されており、未だ決定には至っていない。そこで本研究ではBaFe_2(As_<1-x>P_x)_2に精密比熱測定を行い、更に結晶面内で磁場を回転させ、比熱の磁場角度依存性を測定することで超伝導ギャップ構造の詳細を解明したい。
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