研究概要 |
近年、強相関電子系において従来の機構では説明がつかない超伝導体が数多く発見されており、その発現機構を解明するための研究が世界中で精力的に行われている。その中でもとりわけ2008年に発見された鉄系超伝導体は、それまでは超伝導と競合関係にあるとされていた磁性を示す鉄元素を含むにも関わらず高い超伝導転移温度を持ち、その機構解明は現代の凝縮系物理学の中心的課題の一つである。 一般に超伝導発現機構を解明するためには、それと密に関係する超伝導対称性を決定することが最も有効な手段の一つである。鉄系超伝導体Ba_<1-x>K_xFe_2As_2においては、その超伝導ギャップ構造は最適組成領域ではフルギャップ、ホールドープエンドではノーダルであることが多くの実験結果より示されている。この系における超伝導対称性を明らかにするためにはその中間組成域での超伝導ギャップ構造を決定することが重要である。そこで、我々は、この系におけるホールドープエンド近傍の組成x=1.0, 0.93, 0.91, 0.88, 0.86, 0.76, 0.69の精密磁場侵入長測定を行った。その結果、0.86と0.76の間でノーダルノフルギャップの変化が生じることが分かった。更に、ノーダルの領域である0.86≦x≦1.0における磁場侵入長の勾配の組成依存性が非単調に変化することが明らかとなった。この特異な振る舞いは、銅酸化物高温超伝導体や重い電子系で実現されている磁超伝導対称性とは矛盾するが、異なるフェルミ面間で符号が反転したs波超伝導対称性においてノード位置が組成により変化すると仮定したモデルで説明することができる。また、この磁場侵入長測定と定性的に一致する結果が、本研究グループの熱伝導率測定からも得られており、s波超伝導対称性を支持している。
|