本研究の目的は大きく2つ。第1の目的は弦理論自体の理解を深め、完全な理論にするために、弦理論の臨界次元とゲージ選択の関係、弦理論と高階スピンゲージ理論の関係、弦理論における背景時空の扱いなど根元的な疑問を解決することである。第2の目的は物理学の難題であるブラックホール等の強い重力下における現象を超弦理論に深く関わる理論を用いて調べ解明することである。 第1の目的では、前年度までに、重力理論の拡張である高階スピンゲージ理論と関係の深い張力の無い閉弦の理論が、光円錐ゲージにおいて、特定の演算子順序では3次元でも望ましい対称性(時空の共形対称性)を持つことと、そうではない演算子順序の例を調べた。そして時空の共形対称性を持つ場合の質量スペクトルを調べた。本年度は、時空次元を量子異常項の現れ方から3次元とそれより上に分け、演算子順序を量子効果の現れ方から2つのタイプに分けて、光円錐ゲージにおける張力の無い閉弦の理論をより一般的に調べ、量子化の整合性を具体的に示した。また有質量スペクトルで新しい形のものを具体的に与えた。さらに開いた弦や超対称性を持つ弦へ拡張する際の変更点を挙げ、量子異常の有無を考えた。本研究は、張力の無い弦理論の様々な場合を統一的に扱いその物理的内容を探る点と、弦理論と高階スピンゲージ理論の関係という難題への提言に繋がる点で意義がある。 第2の目的では、3次元から本年度は一般次元に拡張し、特にゼロと連続という特徴的な質量スペクトルに注目して、張力の無い弦理論を具体的な物理現象への活用を考えた。張力の無い弦理論が時空の共形対称性を持つので、AdS/CFTなどの双対性で通常の弦理論とは異なる位置付けになれる点、ブラックホール等の重力現象を張力の無い弦理論で間接的に考えられる点、双対な理論として高階スピンゲージ理論が期待される点で、第1の目的にも関係して興味深く意義がある。
|