研究課題/領域番号 |
12J01699
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 愛 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ストア派 / 政治哲学 / ポリス / 法 |
研究概要 |
本年度は、初期ストア派において法とポリスという概念がどのように再定義されたかという問題について取り組んだ。 この問題について、法とポリスについて、ゼノン、クレアンテス、クリュシッポスのそれぞれがどのように再定義を行ったのかを明らかにした。主に、以下のことを指摘した。 a)法は知者の徳として言われる場合と宿命あるいは摂理として言われる場合がある。 b)ポリスは、人間の知者のポリスとして言われる場合と、神々と人間の知者を市民とする宇宙として言われる場合がある。 c)全人類を市民とするポリスという概念は初期ストア派において確認されない。 d)神々と人間の知者を市民とする宇宙をポリスと論じる主張は、ゼノン、クレアンテスには帰せられず、クリュシッポスに帰せられる。 e)神々と知者のポリスの論証は、ゼノンにおける知者のポリスの議論と宇宙をポリスに喩える議論を組み合わせてクリュシッポスにおいて発展したと推測される。 f)「知者だけが市民である」という命題は、法が知者の徳として再定義されていることを論拠としている。 b)c)d)は、先行研究において論争されている点であるが、a)という解釈を新たに主張することによって、論争の解決に寄与した。従来の研究においても、法が知者のロゴス(理性)としても考えられているということは示唆されてきたが、クリュシッポスについての諸証言から、法が、全世界の統括原理である宿命とは区別される知者の徳として再定義されていることを説得的に論じることに成功した。e)f)については先行研究において論じられておらず、今後、新たな議論の活性化をもたらすだろう。 これらの指摘によって、ストア派における政治哲学用語の再定義の解明に貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初期ストア派における政治哲学という先行研究が乏しいテーマについて、いくつかの新しい解釈を提案することに成功した。このことは、+分に評価されてよいと思われる。しかしながら、当該年度中に研究の成果を十分に発表することが出来なかった。ただし、研究の成果の一部は、すでに論文と学会において発表されることが決定している。
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今後の研究の推進方策 |
新たに以下の問題に取り組む。 -初期ストア派における知者と愚者の区別と、中後期ストア派における全人類の連帯という概念との間の断絶はどのように説明されるのか。 -ゼノン『国家』は、古代ギリシアにおける政治哲学の伝統においてどのように位置づけられるか。特に、プラトン『国家』をゼノンはどのように批判し、シノペのディオゲネス『国家』をゼノンはどのように継承しているのか。
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