小脳プルキンエ細胞の抑制性シナプスでは、細胞内カルシウム濃度が上昇してカルシウム・カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII)が活性化すると、Rebound Potentiation (RP)と呼ばれるシナプス可塑性が起こる。シナプス可塑性の起こり易さは、記憶や学習の能力と関連すると考えられており、本研究は、シナプス可塑性の起こり易さを調節する分子メカニズムを明らかにすること目的としている。これまでの研究において、CaMKIIの2種類のサブタイプ(αおよびβ)のうち、βCaMKIIがRPを起こり易くすることを明らかにした。この結果に基づいて、平成25年度はこのようなサブタイプ依存性がどのような分子メカニズムに依るかを明らかにするために、分子生物学的手法、電気生理学的手法および蛍光タンパク質を用いた蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)イメージングを組み合わせて、研究を行った。遺伝子改変して特異的機能を欠失させたβCaMKIIを、培養したプルキンエ細胞に発現させてRPを記録することにより、βCaMKIIのカルシウム・カルモジュリンへの高い親和性が、βCaMKIIのRPへの寄与に重要であることが分かった。また、βCaMKIIの活性を検出するFRETプローブの作成に成功し、それを用いることで、プルキンエ細胞内でβCaMKIIが長期的に活性化することを示した。RPの誘導にはCaMKIIの長期活性化が重要であることと合わせて考えると、本年度の結果から、βCaMKIIはカルシウム・カルモジュリンへの親和性が高いためにCaMKIIの長期活性化に寄与し、結果としてRPを起こり易くすると考えられる。
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