今年度は連星中性子星が合体する前の、インスパライル期の重力波波形の研究について取り組み、これに関する1編の論文を発表した。具体的な内容は、研究計画にも書いた通り、連星中性子星のインスパイラル後期に中性子星の有限サイズの効果、即ち潮汐力の効果がどれほど重力波波形に反映されるかというものである。これまでに、ポストニュートン近似という摂動展開によって、この潮汐力の効果を見積もられており、ポスト2.5ニュートニアンの潮汐力の効果を取り込んだ重力波波形が計算されている。私は、連星中性子星のインスパイラル後期から合体までを数値相対論シミュレーションを行い、非摂動的な連星中性子星合体の重力波波形と比較することで、摂動論の正当性や潮汐力の非線形効果について議論した。その際、状態方程式に対する依存性と数値シミュレーションの収束性を明らかにするために、3つの異なる状態方程式、4種類の異なる空間分解能の合計12の数値シミュレーションを行った。また摂動論が良い近似で成り立つと期待される、軌道角周波数が450Hz付近からシミュレーションを開始した。これによって、10周以上の軌道運動を計算することができる。 私は上記の数値シミュレーションをもとに得られた重力波波形と、ポストニュートン法、Effective One Body法と呼ばれる2種類の方法で摂動的に求めた重力波波形の比較を行った。その結果、Effective One Body法の結果が数値相対論の結果と最も良く合う事がわかった。これは、Effective One Body法はポストンニュートン法とは異なり、動径方向の速度も考慮しており、インスパイラル後期ではポストニュートン法よりも優れた方法であるためである。また合体までに1-3radianほど位相がずれることがわかった。これらは、摂動論で潮汐力の効果を評価する際に用いる線形応答が破れていることを示唆する。したがって、連星中性子星のインスパイラルを正しく記述されためには、線形応答を超えて中性子星の潮汐変形を評価するべきであることを示した。
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