研究課題/領域番号 |
12J01905
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
畑 有紀 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 食文化史 / 近世文化史 / 養生 / 食物本草 / 情報伝達 |
研究概要 |
本年度は、(1)食物の対立を描く絵画に表現される食養生・医学的知識の分析、(2}江戸後期から幕末における飲食物の対立を描く物語本の精読、(3)食物本草を中心とする教訓を和歌形式で継承する伝統に関する考察、(4)養生書における養生知識普及の目的についての調査を行った。 (1)では、擬人化された食物の合戦を描く幕末の錦絵、および江戸初期から中期、食物が主体的に描かれた「酒飯論絵巻」や「果蔬浬槃図」を取り上げ、当時の食物本草書の記述から、描かれた食物に対して人々が想定していた人体への影響を分析した。その結果、江戸初期から中期、食物を描く際に食養生は意識されず、江戸中期以降、徐々に意識されるようになったと推察するに至った。この成果は『アジア遊学』154号、「フランス国立図書館写本室蔵『酒飯論絵巻』をめぐって」で発表した。 (2)では、物語本に反映された情報の分析により、産地、有名店等の物産情報だけでなく、医学的知識までをも楽しむ文化の存在を指摘した。そして、医学的知識を含む江戸後期の情報伝達が、異類合戦物の伝統を利用、発展した可能性を提示した。この成果は「文化創造の発展とその展開一食・戦い・装い、室町から江戸」等で発表した。(3)では、『和歌食物本草』などの食物本草書において、各食物の効能や害毒が、五・七・五・七・七の和歌形式で記述されていることに注目し、これらの食物本草書が和歌形式で記された背景について考察を行った。その結果、食物本草、ひいては食養生が、中国医学からの影響だけでなく、和歌という日本古来の伝統をも踏襲しながら表現されている事実を明らかにした。この成果は『言葉と文化』14号に発表した。(4)では、東北大学附属図書館、京都大学附属図書館、大阪府立中之島図書館等に所蔵される養生書について資料調査を行った。この他、パリ・セルヌスキ美術館において、同館所蔵和書の調査を行っており、この解題目録を近く発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた往来物、料理本といった資料の精読には至っておらず、完全に計画通りに進んでいるとは言い難い。これは、江戸後期の日常的な食物だけでなく、酒や煙草等、いわゆる嗜好品の生産や普及、当時の人々の想定した医学的効果までをも研究対象に含めたためである。しかし、このことにより、より広い意味で人体に取り入れるものに対する当時の人々の意識を究明し、当初の計画以上の成果が得られると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、嗜好品の生産や普及、当時の人々の想定した医学的効果等の分析を通して、日常の食だけでなく、人体に取り入れるもの全般に対する生活の中での位置付けを明らかにすることができる。その上で、日常の食物の位置付けについて再検討し、日常の食物が養生に際してどのような効果を持つと考えられていたのかを考察することで、当時の人々の生活における食養生の本質を、より鮮明に浮き彫りにできると考えている。また、このような食物や嗜好品に関する近世資料の多くが、研究対象として未だ分析されていないため、次年度はより精緻な資料調査を行う必要がある。
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