研究概要 |
本研究は、低強度の運動介入が高齢者の前頭前野機能に与える効果の脳内メカニズムを、最新の脳機能イメージング装置である近赤外線分光法装置(fNIRS)を用いて明らかにすることを目的としている。 昨年度までで、健常な高齢者に対して、一過性の中強度運動が実行機能(前頭前野が司る高次認知機能)を評価するストループ課題の成績を高める脳内メカニズムを明らかにし(Hyodoら, 2012, Neurobiol Aging)。横断的研究により、最大下の有酸素能力である換気性作業閾値(VT)の高い高齢者は実行機能が高く、その脳内メカニズムとして、若者型の左半球優位の脳活動が保たれていることが明らかとなった(論文投稿中)。VTは低強度の身体活動量と関係することから、低強度の運動でも実行機能が向上する可能性が示された。 しかし、低強度運動が直接的に実行機能に与える効果については未だ明らかではない。したがって、本年度はまず若齢成人を対象に低強度の運動が実行機能に与える影響とその脳内メカニズムを検討した。25名の若齢成人に、10分間の低強度運動(30%VO2peak)を行わせ、その前後にストループ課題をおこない、課題中の前頭前野脳活動をfNIRSで測定した。その結果、低強度運動後にストループ課題の成績が向上し、その際ストループ課題の遂行に必要な左前頭前野の活動増加が見られた(Byun, Hyodo,ら, Neuroimage, minorrevision)。この結果から、低強度運動は中強度運動と同様に実行機能を高めることが明らかになり、高齢者においても同等の効果が表れる可能性がある。しかし、習慣的な低強度運動が実行機能に与える影響は未だ明らかではない。そこで、現在は、3ヶ月間の低強度運動が、高齢者の実行機能に与える影響の脳内メカニズムを検討している段階である。
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