研究課題/領域番号 |
12J01936
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
李 紅梅 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(DC1)
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キーワード | iPS細胞 / TALEN / 遺伝子改変 |
研究概要 |
本研究では、ヒトiPS細胞において標的遺伝子の任意の位置にDNA損傷を誘導する事で、相同組換えを誘導し、遺伝子改変を行う事を目標とする。交付申請書には、ペプチド核酸PNAを利用し、Ce/EDTA錯体でゲノム上標的部位を切断し、DNA修復機構を活性化することで、標的部位の相同組換えを目指すとしていた。そのため、BFPからGFPへの組換えモデル系における相同組換え効率の評価を行った。しかし、PNAとCe/EDTA錯体を用いた系はプラスミド上では部位特異的な切断を示したものの、ヒトiPS細胞へ導入した系では、ターゲットサイトが切断された結果は得られなかった。一方、新たな人工ヌクレアーゼとしてTALEN(TALeffectornuclease)がヒトiPS細胞ゲノム上で変異導入が報告された。従って、申請者は、TALENを用いて、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)患者由来iPS細胞において、ジストロフィン遺伝子のエクソンフレームシフトを誘導し、機能性ジストロフィンを回復させることを目的とした。 申請者はこれまでに、以下の実験を検討してきた。 1.まずエクソン44が欠損したDMD患者由来皮膚繊維芽細胞にエピソーマルベクターを用いて、Dm-iPS細胞を樹立した。 2.次に、15ペアのTALENsを構築し、ssAアッセイから2ペアが高い組換え活性を持つことを見出し、Dhm-iPS細胞にエレクトロポレーション法を用いて導入効率の条件検討を行った。 3.TALEN切断部位に存在する制限酵素による切断解析を行い、約5-15%の変異導入効率を得ることができた。さらに変異導入傾向を確認するため、次世代シーケンス解析を行い、さまざまな長さの欠損および挿入が確認された。 4.TALEN導入後にサブクローニングを行ったところ、変異導入された中のいくつかのクローンにおいて、ジストロフィン遺伝子のフレームが回復していることを確認した。 これまでの一年目の結果を踏まえて、TALENを用いたフレームシフトによるジストロフィン遺伝子異常の回復ができることが示された。二年目、三年目では修復した細胞におけるジストロフィンタンパク質の確認およびTALENによるoff-targetの検討を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は一年目に、PNAとCe/EDTAを用いたBFPからGFPへの組換えモデル系を評価した結果、ヒトiPS細胞ゲノム上では部位特異的なターゲットが得られなかったことを示した。しかし、TALEN技術を用いて、デュシャンヌ型筋ジストロフィー患者由来のips細胞(DMD-iPS)において、フレームシフトを起こしたジストロフィン遺伝子の機能を回復させることを目標に実験を進めている。これまでに、申請者は既に多数のTALEN発現ベクターを構築し、高活性TALENの作製に成功した。そして、DMD-ips細胞へのTALEN導入条件を検討し、高い変異導入効率が得られる条件を見いだした。変異導入後、数多くのサブクローンを樹立し、ジストロフィン遺伝子のフレームシフトが回復した株を樹立した。これらの研究結果は、国際幹細胞学会(ISSCR)年会(2012年6月)におけ.るポスター発表や、日本分子生物学会年会(2012年12月)における口頭発表にて報告を行っている。以上のことより、申請者の研究は順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を踏まえて、TALENを用いた遺伝子改変はフレームシフトによるジストロフィン遺伝子異常の回復ができることが示された。二年目からは、遺伝子異常の回復した細胞からジストロフィンタンパク質の発現を検出すること、さらに、遺伝子治療に向けて最も重要な課題である安全性を厳密に評価することなどを中心に、研究を進めていきたい。 1.DMD-iPS細胞から分化した骨格筋細胞での全長ジストロフィンタンパク質の確認 骨格筋細胞に分化した細胞からジストロフィンタンパク質の発現をウェスタンブロッティングにて検討している。 2.TALENによるOff-target解析 TALENなどの人工ヌクレアーゼを用いたゲノム編集では、目的ではない部位へ予期せぬ切断が起こるリスクを常に考慮する必要がある。申請者は目的部位以外に変異が導入されたかどうかを確認するために、ゲノム上の類似ターゲットサイト解析とエクソームシーケンス解析を行う予定である。
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