研究概要 |
昨年度に引き続き、重力レンズ解析によって再構築される二次元質量密度場(convergence field)に関する統計解析と、その結果得られると期待される宇宙論的な制限についての研究を行った。統計解析手法として、convergence fieldのもつ宇宙論的な情報をより効率的に捉えるために、ミンコフスキー汎関数という形態学に関する統計量に注目した。ミンコフスキー汎関数は、2次元場に対しては、一点分布(V_0), 等高線の長さ(V_1), 等高線の曲率(V_2)の3つで定義される。この研究では、高解像度の宇宙論的N体シミュレーションを利用することで、非線形な重力進化を考慮したconvergenceマップを作成した。このマップを利用して、先行研究では考慮されていなかったいくつかの観測効果を含めた統計解析を行い、将来観測におけるミンコフスキー汎関数解析の適応性をテストした。第一段階として、実際の観測に含まれるマスク領域がどのようにミンコフスキー汎関数解析に影響するかを調べた。結果として、マスクの領域の有無によって、ミンコフスキー汎関数の値はバイアスされることがわかった。さらに、このバイアスの度合いは現段階ではシミュレーションによってのみ補正することが可能であることも明らかにした。これは、1000平方度以上の広視野観測領域が予定される将来観測において、ミンコフスキー汎関数解析によって宇宙論的な制限をつけるためには、観測領域と同程度の広視野をカバーした数値シミュレーションが必要になることを意味する。これをうけて、現存する重力レンズデータであるCanada-France-Hawaii Telescope Lensing Survey (CFHTLenS)にミンコフスキー汎関数解析を適応し、宇宙論パラメータ推定における系統的な研究を行った。CFHTLenSは合計154平方度をカバーする4つの領域からなる重力レンズデータである。CFHTLenSにおける観測効果を網羅するため、観測と同じ視野を確保するconvergenceマップを作成し、直接的に観測結果とシミュレーション結果を比較した。複数の観測効果を取り入れると、ミンコフスキー汎関数による宇宙論的な制限は、先行研究の予言する制限に比べ数倍悪化するが、依然として暗黒エネルギーの状態方程式パラメータに感度を持つことを明らかにした。この結果から、すばる望遠鏡次世代観測Hyper Suprime Camでの制限は、既存の宇宙論な制限から大きく向上することが予測される。さらに、二点相関関数と同時にミンコフスキー汎関数を用いることで、よく知られる宇宙論パラメータ間の縮退を解くことに成功した。
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