本研究の目的は職業的地位認知(職業の社会的地位をどれだけ細かく、多段階に区別して認知するか)の個人差が地位志向(高い社会的地位を獲得・維持したいという動機づけ)の強弱を通して個人の社会的地位の変動に影響するという仮説を実証し、職業的地位認知を媒介要素とした社会的不平等の維持・変革メカニズムを解明することである。本研究では、職業的地位認知と地位志向の因果関係を明らかにすることが重要であるため、同一個人を追跡調査してパネルデータを作成する必要があった。そこで平成24年度、平成25年度に引き続き、本年度もインターネット調査を実施した。職業的地位認知(職業的地位の段階数)の測定においては、職業名を表示したラベルを回答者に表示し、画面上で操作、分類することが可能な専用のインターフェースを使用した。この調査により、研究計画の通り、最大2年間の間隔を持つパネルデータを作成することができた(15-34歳の男性516名)。職業的地位認知と地位志向の関係および職業的地位認知の規定要因について分析を進めた。 さらに職業的地位認知のような心理的要素による社会的不平等の維持・変革メカニズムを多角的に検討するため、収集した調査データを利用してソーシャルスキルと雇用形態との関係を分析した。その結果、ソーシャルスキルが高い男性ほど正社員として雇用されやすいこと、職務経験はソーシャルスキルを高めないことが明らかになった。このことは、ソーシャルスキルという心理的要因によって格差が生じるメカニズムが存在することを意味している。しかしソーシャルスキルは学歴や出身階層とはほぼ独立であったため、学歴や出自の不利を高いソーシャルスキルで補うというように、ソーシャルスキルによる人びとの選抜が、既存の社会的不平等を緩和・変革するという可能性も示唆している。これらの結果について国際会議での報告と論文発表(査読あり)を行った。
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