研究概要 |
乾燥種子中には種子形成時に蓄積されたlong-lived mRNAと呼ばれる転写産物があり,発芽初期のタンパク質合成では,このlong-lived mRNAが鋳型として用いられている.本研究は発芽に必要なlong-lived mRNAの安定性に着目し,種子の寿命維持機構を明らかにする解析を行った. 平成24年度に得られた結果は以下の通りである. 1,イネの種子形成において発芽に必要なlong-lived mRNAの蓄積が完了する時期は開花後約20日目であることを特定した.またその時期に蓄積する発芽に必要なlong-lived mRNAの候補として280種類の遺伝子を見出した.これらの中には最近報告された,植物ホルモンのアブシジン酸の輸送体の1種や,種子の活力に関わるボスファジルイノシトールキナーゼの1種など,発芽誘導の鍵となる遺伝子の候補が多く含まれていた. 2,2次元電気泳動を用いたイネの発芽胚のプロテオーム解析により,long-lived mRNAから翻訳される20個のタンパク質を同定した.それらのタンパク質には解糖系などのエネルギー生産やアクチンなど細胞骨格に関与するものが多く含まれることを明らかにした. 3,イネの成熟種子中からlong-lived mRNAの安定性を制御するRNA結合タンパク質の候補として,glycine-rich RBP(GR-RBP)の1種であるputadve RNA-binding protein RZ-1A(RZ-1A)を特定した. 以上のように平成24年度は,発芽に必要なlong-lived mRNAおよびその安定性制御に関わる候補タンパク質のRZ-1Aを特定した.最終年度の平成25年度は,RZ-1Aが種子の寿命および発芽に必要なlong-lived mRNAの安定性に与える影響について明らかにする予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度は計画した全ての実施項目について,目的とする結果を得ることができた.特に発芽に必要な10ng-lived mRNAの蓄積が完了する時期と,その安定性に関わるRNA結合タンパク質の候補の特定に成功したため,それぞれの成果について投稿論文を執筆中である.平成25年度には本研究計画の成果を掲載論文として報告したいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,以下の項目を実施する. 1,long-lived mRNAから翻訳されるより多くのタンパク質を明らかにするため,LC-MS/MSを用いたイネ発芽胚のプロテオーム解析を行う. 2,RZ-1Aが種子の寿命に与える影響を明らかにする.RZ-1AはGR-RBPの一種であり,GR-RBPはストレス応答に関与することが知られている.そこでRZ-1A以外のGR-RBPについても種子の寿命に与える影響を明らかにする.3,GR-RBPが発芽に必要なlong-livedmRNAの安定性に与える影響を明らかにする.
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