研究概要 |
平成25年度に得られた結果は, 以下の通りである. 1. LC-MS/MSを用いたショットガンプロテオーム解析により, 吸水後1日目のイネ胚でlong-lived mRNAから翻訳されるタンパク質の同定・定量を行った. その結果, 転写阻害剤で吸水後の新規の転写が阻害された胚でも増加する290種類のタンパク質を明らかにした. これらのタンパク質の合成は, 吸水前の種子中に存在するlong-lived mRNAを鋳型として行われることが示唆された. さらにこれらのタンパク質のうち, 124種類のタンパク質は, 阻害剤非存在下で吸水させた胚でも顕著に増加していた. したがってlong-livedm RNAから翻訳されるこれら124種類のタンパク質は, イネ種子の通常の発芽誘導において重要な役割を果たすと考えられる. Gene Ontology解析の結果, これら124種類のタンパク質には翻訳やエネルギー生産, 輸送, ストレス応答などに関わるものが有意に多く含まれていることが明らかとなった. 2. Long-lived mRNAは極度に乾燥した種子中でも翻訳可能な状態で維持されているとことになる. 種子形成中のイネ種子の含水率の低下に伴い, 顕著に増加するRNA結合タンパク質としてRZ-1A, GRP1A, およびKHを同定した. 特にRZ-1Aは種子特異的な発現を示し, RNAシャペロンとして機能する可能性があることから, long-lived mRNAの安定性の制御に重要な役割を果たす可能性が示唆された. 3. 貯蔵期間中のイネ種子に含まれるRNAの安定性を評価した結果, RNAの分解には品種間差異があり, 種子寿命の長い品種では, 相対的にRNAが分解されにくいことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LC-MS/MSを用いたショットガンプロテオーム解析により, 発芽誘導に必要なlong-lived mRNAを期待以上に同定することができた. またlong-lived mRNAの安定性に関わるRNA結合タンパク質については, その候補を特定することができた. 一方でRNA結合タンパク質の詳細な機能の解明には至っていない. したがって総合的に判断すると, 研究はおおむね順調に進展したといえる.
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