生後発達期、中枢神経系では大規模な神経回路形成・編成が生じる。神経回路網の変化としては神経間の情報伝達部位であるシナプスの除去や新生があげられるが、近年、ミクログリアがシナプス除去に対して役割を持っていることが明らかとなってきた。申請者は未解明である生後1-2週目のマウスにおけるミクログリアの役割、特に神経回路発達の指標となるシナプス動態に対するミクログリアの関与について明らかにするためにin vivo 2光子イメージングを用いたミクログリアの接触とスパイン形成または消失について検討を行った。生後8-10日齢の子宮内電気穿孔法によって大脳皮質興奮性神経細胞に赤色蛍光タンパク質を発現させたlbal-EGFPマウス(ミクログリア特異的にEGFPを発現)を用いて、タイムラプスin vivo 2光子イメージングを行ったところ、ミクログリアが接触した部位に新たなフィロポディア状の突起(スパインの前駆体であると考えられている)が形成される様子が観察された。 また、ミクログリアの活性を抑えるミノサイクリンを腹腔内投与したマウスのスパイン密度を調べたところ有意な減少が見られ、ミクログリア選択的に除去したマウスでも同様の結果が得られたことから、ミクログリアによるフィロポディア形成は発達期におけるスパイン形成に寄与していると考えられる。さらに、ミクログリアを除去したマウスから作成した急性スライス標本を用いて微小興奮性シナプス後電位の頻度を確認したところ対照群と比較して優位に減少していた。したがって、ミクログリアにより形成されたフィロポディアは機能的シナプスの形成に寄与していると考えられる。以上の結果から大脳皮質体性感覚野の発達期において、時期特異的にミクログリアがフィロポディアの形成を介して機能的シナプスの形成に寄与していることが示され、発達期の回路形成に対するミクログリアの新たな役割を示唆する結果が得られた。
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