1. ショウバック北地域における考古学踏査の最終報告書の刊行 昨年度までに終了したショウバック北地域における考古学踏査及び採集遺物の実測・トレースの成果に基づいて、最終報告書作成作業を進め、刊行に至った。作業内容は、1)登録遺跡の時期決定及び遺跡種別の再分類、2)各時期の遺跡分布状況の検討、そして3)原稿(本文及び図表)の作成であった。結果として、最終報告書の刊行に至った。 2. ショウバック北地域における前期青銅器文化の人口論的研究 ヨルダン南部ショウバック北地域の前期青銅器時代III期後半(前2500~前2300年)における利用意義について、西隣アラバ渓谷内の銅生産拠点フェイナン地域の食料自給状況の観点から考察した。結果として、1)東西の乾燥地域に挟まれた環境的境界地域/ニッチであるショウバック北地域がフェイナン地域で消費する穀物の生産を一部賄い得たこと、2)フェイナン地域の銅生産が周辺地域からの複合的な資源調達(食糧も含む)により成立していた可能性、そして3)北方の「都市」社会‐文化とは異なる形での社会的複雑化が進行していたことが示唆された。 3. ヨルダン渓谷北部における土器磨研技術の分析 昨年度に引き続き、ヨルダン渓谷・死海地溝帯南北の土器製作技術(器面調整)の差異を明確にし、イスラエル北部における文化変遷を把捉するために、ヨルダン渓谷北部の「都市」型遺跡ベト・イェラハ出土の皿形・鉢形土器(EB III期:前2700~前2300年、イスラエル考古庁所蔵)の調査・研究を実施した。結果として、前時期とは異なり幅の狭い磨研が連続的に同心円状に施されるようになることが確認された。こうした磨研の多くは外来の精製土器ヒルベト・ケラク土器の内外面に見られた。一方、前時期の放射状磨研は衰退し、放射状に文様を描き出すパターン・バーニッシュに取って代わられることが判った。
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