研究概要 |
1.変形により流体中を推進する数理モデル(squirmer)に対する流体の非定常項の効果 非定常Stokes流中のsquimerに関して、その推進速度の長時間漸近表式を摂動論によって求めた。この解析により、非定常項の大きさRwによる補正項は0(Rw)であることがわかった。また、この表現を波状の変形運動(繊毛波)に適応すると、波の波数kが大きい場合には流体の非定常性の効果がほとんどないが、k=1のモードに対しては非定常項による項が重要になることが分かった。このモードは波状パターンより、むしろ羽ばたきパターンに対応しており、非定常項による効果が羽ばたき運動で大きくなる。また、低次の変形のみによる、より簡単な数理モデルを提案し、力学的な運動効率を最大にするパターンが、Rwの大きさによって波状パターンから羽ばたきパターンに変化することを示し、慣性の効果と形態変化に関する理論的な説明を与えている。 II.変形を伴うStokes流中での推進運動を計算するための数値アルゴリズムの構築と実装 境界要素法を用いた数値計算を実装し、その評価には、squirmerモデルの変形振幅に関する摂動展開の表式 (Blake,1971)を用いた。このスキームでは、体積を保存する変形にしか適応できないが、十分な精度で変形により流体中を泳ぐ物体の遊泳速度と流体への仕事率を求めることができるようになった。これを大変形squimerに適応し、摂動論からのズレに関して詳細な議論を行った。また、1.と同様な繊毛波パターンを考えると、大振幅を許した場合では、k=0.4程度の小さな波数でかつ振幅の大きい変形が繊毛波状のパターンよりずっと運動効率が良いことが分かった。 この結果は、アメーバ運動等に代表される大変形を伴う遊泳の基礎付けを与えると同時に、新たな数値計算方法を提案している。
|