与えられた環(単位元を持ち結合律を満たす)の表現論的構造やホモロジー代数的性質を解明するにあたり、森田同値や導来同値の概念は極めて重要な役割を果たしている。二つの環が森田同値であるとき、ホモロジー代数的性質は同一であると見做せるのである。導来同値は森田同値の導来加群圏への一般化として捉えることができる。森田同値ならば導来同値であることを注意しておく。導来同値に関して、様々な不変量が知られており、導来同値な二つの環はホモロジー代数的性質がかなり近い事が分かる。そのため導来同値を引き起こす傾斜鎖複体を多く構成し、それらについて考察することが重要であり、現在も活発に研究が進められている。その研究の一つに変異の理論がある。 本研究の目的の一つは導来同値を引き起こすネター多元環上の傾斜鎖複体及び傾加群の変異が起きるための必要条件及び十分条件を与えることであった。もう一つの目的は、導来同値の不変量である自己移入次元の有限性に関するもので、アルティン多元環に対して、両側の自己移入次元が有限であることと、任意の有限生成加群のゴレンシュタイン次元が有限であることが同値になるという星野の結果の両側ネター環への一般化を行うことであった。 本年度は、星野との共同研究により、星野の結果をネター多元環へ基礎環の素イデアルによる局駈化を用いて精密化することに成功した。さらにネター多元環が局所環である時に、自己移入次元が両側で有限になる必要十分条件を深度を用いる事で与えた。
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