研究課題
1.渤海出土瓦の三次元計測データの分析本年度は東京大学考古学研究室が保管する渤海上京遺跡出土瓦の三次元計測データの分析を主に行った。前年度までに計測した300余点の中には同范と認定できる資料が多数存在しており、その范傷の進行程度と出土遺構に関連性があることが判明した。渤海の都に関して、従来は都城のプランでその造営過程を復元する手法が一般的であった中、本研究では出土瓦の范傷の進行という具体的な証拠を提示して、都城の変遷について述べた。この手法を用いることによって、渤海研究の重要課題の1つである西古城遺跡の性格と時期に関しても、確認されている当該遺跡が上京に比べて後出のものであるということを示す有力な傍証を得られると考える。なお、2014年11月からはイギリスのヨーク大学で、三次元計測データの利用と効果的な発表方法について検討しており、成果を採用4年度目に公表する予定である。2.渤海鉛釉陶製品の研究緑釉瓦を含む渤海の鉛釉陶製品の検討を行った。渤海遺跡から出土する三彩等鉛釉陶製品は渤海国産であるか唐からの搬入品であるかという点で議論が続いてきたが、本研究ではそれらの出土状況及び内容、推移を、唐など東アジアの周辺諸国における同時期の鉛釉陶製品と比較した上で分析し、既存の研究の問題点を明確にした。さらに、ロシア沿海地方の渤海遺跡で出土した鉛釉陶製品の化学分析を行うことによって、渤海出土鉛釉陶製品の産地の推移を検討した。その結果、渤海の鉛釉陶製品は8世紀半ばの上京遷都を契機にその内容や性格が大きく変化し、また、生産地及び原料の産地も時代とともに推移したことが明らかになった。今後、上京などから出土した鉛釉陶製品の化学分析を行うことによって、渤海においていつから鉛釉陶製品の生産が在地の工人主体で行われるようになったか等を明らかにできると考える。
2: おおむね順調に進展している
本研究の申請時には、中国の吉林省や黒竜江省で資料調査及び三次元計測をおこない研究データを収集・分析する予定であったが、研究開始後の国際情勢の悪化により困難と判断したため、資料調査先を国内等の渤海資料の所蔵機関及びロシア沿海州の研究機関に一部変更して研究を遂行している。また、本研究は遺物の三次元計測データの分析という新しい分野に挑戦するものであり、その手法を確立・応用するために、2014年11月以降は、デジタル・アーケオロジーが盛んなイギリス・ヨーク大学において研究を行っている。研究の場をイギリスに置くことによって、西方世界の建築の研究に接する機会が増え、本研究の課題である東アジアにおける瓦の伝播・発展史を考えるにあたり、より広い視野を持って研究をおこなえるようになった。
今後は、本研究の成果を公表することに重点を置き、イギリスなど海外でも発表を行う予定である。特に、上京竜泉府遺跡から出土した瓦の三次元計測データを用いた研究の成果の公表を中心に行っていく。三次元計測データの効率的な収集方法や、その有効的な活用法については、今後も検討を続けていく予定である。また、2014年には渤海東京に比定される八連城遺跡の近年の発掘調査報告書が刊行され、新たな資料が増えた。これまでに検討した六頂山渤海墓地、上京城遺跡、西古城遺跡に加えて比較検討する。このことによって渤海の王墓や都城の造営過程についてより一層明確に提示することができるようになると見込まれる。さらに、絵画資料や現存する建造物の部材、他国の出土報告例などと比較検討することによって、緑釉を施した柱座や立体的な鬼瓦など渤海に特有な建築部材について考察する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Asian Archaeology
巻: 3 ページ: 145-165