暑熱環境に曝された精巣では、精細管上皮に重篤なダメージが誘導され、精細胞はアポトーシスにより死滅する。興味深いことに、MRL/MpJ マウスには熱抵抗性精子形成維持機構が存在し、この表現型の責任遺伝子座は1番染色体81cM近傍および11番染色体40cM近傍に存在することが示唆されている。本研究は、これらの遺伝子座の機能解明を目指して実施した。 今年度は、昨年度までに作出した1番染色体約81cMおよび11番染色体約40cMの領域がMRL/MpJマウス型であるコンジェニックマウス (B6.MRLc1、B6.MRLc11、B6.MRLc1c11)を用いて熱ストレス誘導後の精巣を解析した。 腹腔内停留精巣では、コンジェニックマウスの中でB6.MRLc1c11マウスの精子形成が最も高い熱抵抗性を示した。このことから、持続的高温環境下ではMRL/MpJマウスに由来する1番および11番染色体上の責任遺伝子が相互に作用し合って精巣の熱抵抗性を高めていることが示唆された。温水曝露後短期間における精細管上皮へのダメージは、B6.MRLc11およびB6.MRLc1c11マウスではMRL/MpJマウスと同様に軽度であり、精子形成も部分的に維持されていた。一方、B6.MRLc1マウスではこのような熱抵抗性は認められなかったことから、一過性の高温環境下においては11番染色体上に存在する責任遺伝子座が精細管上皮へのダメージを緩和する働きをしている可能性が示唆された。さらに、温水曝露後長期間が経過した精巣に認められる石灰沈着の発症抑制が、作出したコンジェニックマウスの全てで認められたため、MRL/MpJに由来する1番染色体および11番染色体上のそれぞれの遺伝子座が熱ストレスにより誘導される精上皮の変性の修復に関与している可能性が示唆された。
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