研究課題
電界誘起磁化反転は、磁性層を電極として有するキャパシタ構造素子に電圧を印加し、磁化容易軸方向を一時的に切り替えることにより磁化が歳差運動を行うことを利用した磁化反転手法である。1年目で実証したこの電界誘起磁化反転時に付随する様々な現象について深く理解することを目指した。電界誘起磁化反転の確率が熱擾乱により乱される過程を、単磁区を仮定した計算機シミュレーションにより再現し、磁化歳差過程における熱擾乱の影響が磁化反転の制御性を悪化させる(過程が確率的になる)ことを明らかにした。歳差運動過程における熱擾乱の影響を直接測定するため、磁化方向に依存する磁気トンネル接合の抵抗変化により反射率が変化することを利用して、ナノ秒程度の時間領域で電界により誘起される磁化の歳差運動の様子を測定した。素子抵抗と接合面積の積と、素子サイズの最適化を行うことにより、検出信号強度を向上し、ナノ・メートルサイズの磁性体の1回の試行での電界誘起磁化歳差を世界で初め七実時間観測した。測定結果から、電界印加時間の経過につれての歳差運動振幅の減衰は10ナノ秒程度まで殆ど見られないが、歳差運動の位相の試行ごとの分散が著しく大きく、多数回の試行の結果を平均する確率測定では見かけの振動振幅が減衰することを明らかにした。この結果は、微小磁気デバイスの磁化ダイナミクスを理解する上で重要な知見となる。電界誘起磁化反転は磁化歳差運動を利用するという特性上、電圧制御時にオーバー・ドライブできないという原理的欠点があり、この克服のためにスピン注入磁化反転を併用する新しい磁化反転手法を提案した。提案手法を用い、スピン注入磁化反転による磁化反転よりも高速かつ低消費電力で、電界誘起磁化反転よりも電圧制御マージンが広い磁化反転を実証した。
(抄録なし)
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