研究概要 |
山形県立自然博物園内で氷雪藻野外試料の採集を行い、野外試料中の氷雪緑藻ボルボックス目藻類の栄養細胞または接合子と考えられる休眠細胞から複数遺伝子領域の塩基配列を決定し、分子同定による生活環の推定を試みた。分子系統の結果、得られた配列のほとんどは既知の氷雪緑藻ボルボックス目および新規培養株の配列と近縁ではなく、日本産氷雪緑藻の種の実体解明には更なる調査が必要と考えられた。 接合子形態は伝統的な氷雪緑藻クロロモナス属の種分類における重要な識別形質とされているが、培養条件下で観察することが難しく(Hoham et al. 2006, Phycologia)、また、近年の分子系統は接合子形態で識別できない複数の種の存在を示唆している(Muramoto et al. 2008, Cytologia)。そこで、培養株の形態形質のみを識別基準として、氷雪藻クロロモナス属を種レベルで分類することを試みた。氷雪藻クロロモナス属培養株10株に対して光学・電子顕微鏡観察及び3遺伝子系統解析を実施した結果、「葉緑体形状」「栄養細胞形状」「無性生殖における娘細胞の最大数」「古い培養株内で細胞集合体を形成するかどうか」といった培養株の形態形質のみで、10培養株を6形態種(2新形態種を含む)に識別できた。本種分類は生殖的隔離を引き起こすほどの遺伝的差異を推定できるとされているITS2二次構造の比較(Coleman 2009, Mol. Phylogenet. Evol.)、および核・葉緑体ゲノムにコードされた複数の遺伝子の遺伝的差異の比較からも支持された(Matsuzaki et al, 2014, Phycologia in press)。本研究は氷雪藻クロロモナス属の種を識別する上で重要な基盤となることが期待される。
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