研究概要 |
水酸化ナトリウムを溶媒とする,セルロースの新しい溶解法の確立により,セルロース成型体は,世界で初めて法律的に認められて食品展開できるようになった。しかし,法律的に可食なセルロースは,異物感を感じるため食感的には可食ではない。現在までに,セルロースの構造形成の初期に形成されるセルロース分子シートを乱すことで最終的なセルロースの結晶性が低下し,これが食感改良に繋がるという,構造設計のための基本的な考え方が分かっている。しかし,なぜシートが乱れるのかという食感改良に関係する構造制御の方法論が明らかでない。そこで本研究の目的は,「セルロースとその周辺物質との相互作用を周辺物質の観点,固体構造の観点から明らかにすること」である。どのように物質はセルロースに近づき影響を及ぼすのかを,相互作用という観点で解明し,構造制御の方法論を見出し,望ましい構造を設計する予定である。この目的を達成するために,当該年度は,セルロースの周辺物質の観点から検討を行った。実験において,様々な染料存在下で天然,再生セルロースの結晶性変化を検討した。天然セルロースでは直接染料存在下で結晶性の低下が観察されるが,再生セルロースでは観察されなかった。一方,分子動力学シミュレーションを用いて,天然セルロースの構造形成に関して検討を行い,構造形成を行う環境(水)に大きく影響され,ファンデルワールス力などの疎水性の相互作用により集合した分子シート構造の可能性を提案した。さらに,再生セルロースの構造形成(分子シート構造)を誘起する溶解状態を明らかとするため,水酸化ナトリウム水溶液中でのセロビオースのシミュレーションを試みた。当該年度において,研究目標であった,再生セルロースの分子シート構造を誘起するセルロースの溶解状態をシミュレーションにより明らかとし,そして実験的に最終構造(結晶性)から再生セルロースの溶解状態について明らかとすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,「セルロースとその周辺物質との相互作用を周辺物質の観点,固体構造の観点から明らかにすること」である。本年度は,セルロースの周辺物質の観点から検討を行った。研究目標であった,再生セルロースの分子シート構造を誘起するセルロースの溶解状態をシミュレーションを用いて明らかとし,そして実験的に最終構造(結晶性)から再生セルロースの溶解状態について明らかとすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
アルカリ可溶セルロースの新しい食材領域を目指した相互作用の解明と構造制御の方法論を明らかにするためには,まず,セルロースの固体構造の観点から理解する必要がある。セルロースはマーセル化処理を行うとアルカリセルロースという結晶形を形成する。つまり,セルロース結晶中に水,ナトリウムイオンや水酸化物イオンが入り込み膨潤状態となる。現在までの研究から考えれば,ファンデルワールスカなどの疎水性の相互作用により集合した分子シートの状態を保持したまま,水やイオンが入り込むことが考えられる。現在この過程を再現するべく,シミュレーションを行っている。このシミュレーションにより再生セルロースの構造単位が分子シート構造であることが明確となるかもしれない。これらの内容を追加し,セルロースの固体構造の観点からの検討を行う予定である。
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