研究実績の概要 |
水酸化ナトリウムを溶媒とする,セルロースの新しい溶解法の確立により,セルロース成型体は世界で初めて法律的に認められ,食品展開できるようになった。しかし,法律的に可食なセルロースは,異物感を感じるため食感的には可食ではない。現在までに,セルロースの構造形成の初期に形成される疎水性の相互作用により集合したセルロース分子シートを乱すことで最終的なセルロースの結晶性が低下し,これが食感改良に繋がるという,構造設計のための基本的な考え方が分かっている。しかし,なぜ分子シートが乱れるのかという食感改良に関する構造制御の方法論は明らかではない。そこで,本研究の目的は,「セルロースとその周辺物質との相互作用を周辺物質の観点,固体構造の観点より明らかにすること」である。 前年度までの研究より,超臨界水に溶解したセルロース溶液に染料を加えるとセルロースの結晶性が低下するのに対し,キュプラ,ビスコース,水酸化ナトリウム水溶液に溶解したセルロース溶液に染料を加えても結晶性は低下しないことを明らかとした。これは,セルロースの溶解状態に起因すると考えられる。現在までに再生セルロースの構造形成メカニズムを報告している。(a)水系溶媒中でセルロースが溶解(b)疎水性の相互作用によりグルコースリングが集合し,分子シート構造を形成(c)分子シートが水素結合などで積層し,結晶を含む薄膜構造体を形成し,最終構造体となる。超臨界水にセルロースを溶解させ,再生後に上澄みをTEM観察すると,リボン状構造が観察された。上述の構造形成メカニズムによれば,このリボン状物は約3-4のセルロース分子シートが積層した構造である。一方,分子動力学シミュレーションより,セルロースの疎水面と染料の疎水面が弱い相互作用により積層し,染料分子の両端がセルロースの水酸基と水素結合を持つことにより集合しシート状態を形成していることを明らかとした。
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