研究課題/領域番号 |
12J02263
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田代 一葉 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 和歌画賛 / 近世公家歌人 / 日野資枝 / 『先考御詠』 / 『先考御詠書集之草』 / 『絵讃便覧』 / 冷泉為久 / 古歌を書きつける画賛 |
研究概要 |
本年の研究実施状況としては、近世期の公家歌人の画賛活動についての研究の初発として、基礎を固めることを重視し、主に調査を行った。 本年度の研究計画としては、研究目的の1「近世初期から幕末までの公家歌人の画賛活動の諸相を調査し、公家歌人にとっての画賛という営為を考える」についての考察を目的として、近世中後期に活躍した日野資枝の画賛活動について調査を行った。具体的には、まず、日野資矩編『先考御詠』(国立国会図書館蔵)の画賛部と、その稿本で編集過程を示すものとされている『先考御詠書集之草』(国立国会図書館蔵)との関係について比較を行った。宮内庁書陵部蔵の日野家に関わる古記録類から画賛に関わる記録を探し出す調査については、現在も継続中である。 また、「古歌を書きつける画賛」について、画賛に着賛するために古歌を集成した私撰集類についての調査を行った。宮内庁書陵部蔵の写本『画賛草』および『絵賛便覧』、刊本の田中五英編『画讃懐玉』(寛政5年序)、石津亮澄編『屏風絵題和歌集』(文政3年刊)などが確認できたが、特に、『絵讃便覧』が、公家歌人の間で重要な書であることがわかった。勅撰集・私家集・私撰集などから約五千首を集め分類した『絵賛便覧』については、宮内庁書陵部本については、すでに調査を行っていたが、その後、書名を若干異にする諸本を、さらに四本確認できた。その中で、立命館大学図書館本を調査したところ、他本にない冷泉為久が撰者であるという情報が書写奥書によって確認でき、さらに何度も転写されてきたという享受に関わる面も知られるのである。 なお、これらの成果については、「古歌を書きつける画賛―和歌・絵画享受の一側面―」(タイトルについては仮題)として論文化した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的として掲げた3点のうち、本年度は、1「近世初期から幕末までの公家歌人の画賛活動の諸相を調査し、公家歌人にとっての画賛という営為を考える」という点と、2「画賛に関する歌論を集成し、歌論と実作との関わりについて、近世期全体を通じて考える」という点について、主に資料の調査を行い、考察を進めた。日野資枝の画賛活動に関する資料を収集する過程で、外山光実など、これまで注目していなかった公家歌人の画賛について知るところとなり、今後の研究に活用できる収穫もあった。2については、「佐野渡」図に関わる画賛を例として、公家を含んだ広く画賛全体に関わる論としてまとめた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、引き続き、日野資枝に加え、烏丸光広、外山光実などの公家歌人の和歌資料等を調査し、画賛に関わる活動を整理し考察することを行う。その際に、歌論や門人などの聞書、書簡類などにも目配りをし、そこに現れた画賛に関する考え方や指導のあり方を考察することも合わせて行う。 また、本年度の研究を通して、画賛の写真資料が本研究にとって大変有効に機能するということがわかってきた。そのため、写真資料または現存する和歌画賛の情報を調査することも検討している。その場合でも、当初の研究計画に含まれる、東京文化財研究所などを中心とした売立目録の調査が有効な手段の一つであると考えられるので、売立目録に記載された和歌画賛についてのデータを収集し活用することを目指している。合わせて、現存する画賛の所蔵が判明した場合には、所蔵する美術館や文庫などの調査も視野に入れて、今後の研究を進めていきたい。
|