本研究の目的は、動物園で飼育されている霊長類と鳥類を対象に認知科学的手法を導入し、認知能力の進化史を解明すること、および飼育環境を改善する環境エンリッチメントを開発することである。中でも、ヒトに特徴的な認知能力のうち道具使用行動に着目する。ヒトの進化の隣人である霊長類と、系統的に遠いが相同な行動を進化させた鳥類を対象として、道具使用行動の実験を実施し、背景にある認知能力の進化史を明らかにする。また、飼育環境の改善に不可欠である飼育環境に求められる認知要因の解明と環境エンリッチメントの発展にも貢献できる。 こうした研究目的および昨年度までの実施状況に基づき、実施2年度目である本年度は東山動植物園を研究のフィールドとして、鳥類と霊長類を対象とした認知実験と行動観察を継続した。まず、鳥類を対象とした研究においては、本年度は簡単な刺激弁別課題をおこない、認知実験に必要な手順を学習させた。対象とした5個体のうち4個体で学習を完了できた。続いて道具使用行動についての実験に移る予定だったが、対象個体が繁殖期に入り実験の継続が難しくなったため、いったん中断した。 霊長類を対象とする研究では、チンパンジー・ゴリラ・オランウータンの大型類人猿3種を対象として選定し、道具使用行動を採食場面に導入することによる環境エンリッチメントの評価を目的として、行動観察を実施した。平常時の行動時間配分および行動レパートリーについて分析をおこなった。行動観察のために開発したモバイルアプリケーションについて論文と学会発表で公表した。また、平行して共同研究者と協力しておこなったコアラの採食選好性などについての研究をそれぞれ学会発表として公表した。自身の研究分野について書籍で概説したとともに、学会発表で公表し、アウトリーチ活動として高校で出前授業をおこなった。
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