研究課題/領域番号 |
12J02331
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
添田 淳史 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 有機半導体 / 高分子配向膜 / イオン液体 / 有機トランジスタ |
研究概要 |
本年度は革新的な塗布型有機半導体電極の作製に向け、高移動度の高分子有機半導体薄膜の作製手法を確立することを目指した。高分子有機半導体においては、主鎖方向と主鎖でのキャリア伝導を比較した場合、大きな異方性があることが知られており、主鎖の方向に大きな移動度を持つことが期待される。しかしこれまでの一般的な製膜手法であるスピンコート法を用いた場合、主鎖の配向を制御することはできなかった。また特定の高分子半導体に対し特殊な方法をもちいて配向度を高める手法は報告されていたものの、多くの分子に適用可能な一般的な手法ではなかった。 本年度は、分子の運動性の高い自由度を有すると考える液体の表面に着目し、その表面において高分子の主鎖を高度に配向させる手法の開発を目指した。具体的にはイオン液体と呼ばれる極めて熱的安定性に優れた液体表面上に高分子半導体薄膜を形成し、有機半導体のガラス転移温度以上の高温において薄膜を圧縮・配向化することにより、高度に配向した有機半導体薄膜を形成することに成功した。またこの手法は一般的な高分子有機半導体材料であるPBTTT、P3HTやPNDTBTなどへ適用可能であることを確認しており非常に汎用性の高い手法であることが明らかになった。またPBTTTC16を用いた場合に作製した薄膜の配向度を二色比を用いて定量的に評価したところ、15.6とこれまで報告されているPBTTT配向膜の中で最高の配向度を有していることが明らかになった。 研究代表者のこれまでの研究において、液体の表面における高い分子の運動性は分子を周期的に配列させるのに非常に有利であるという知見を見出してきたが、その手法の適用範囲は低分子材料へ限られるものであった。本年度の研究成果は液体表面の高い自由度を用いた分子配向性の制御技術の適用範囲を、多くの化合物群を有する高分子有機半導体材料へと飛躍的に広げるものであり、高性能な塗布型有機電極に向けた研究のみならず、高移動度の塗布型有機半導体デバイスの開発・応用という観点においても、非常に大きなインパクトを持つものであると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は新規のドーピング手法の探索を予定していた。昨年度まではドーピングに不利な低分子材料で高移動度を得ていたが、本年度は新たにドーピングに有利であると考えられる高分子材料でも高移動度の薄膜を得ることに成功した。新規の高分子薄膜の作製法は非常に独創的かつ従来の手法と比較しても、高配向度の薄膜が得られる等優位性が多いことに加え学術的なインパクトも有している。高伝導度を実現する化学的ドーピングに向けた基礎的な製膜技術を確立したことから、研究は順調に推移していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、得られた高移動度の薄膜に化学的な手法や電気化学的な手法を用いてドーピングを行い、高い伝導度を有する薄膜の作製を目指す。また、現行の有機半導体薄膜の作製法を基に、さらに簡便に高移動度の薄膜を得られる手法を開発することも検討している。また、新手法で得られた有機半導体薄膜についてはその構造や結晶性などについて詳細な評価をX線回折測定や分光学的な解析などの手法を用いて行うことで、構造と移動度の相関など基礎的な知見を得ることで、今後の有機半導体研究における知見の蓄積に努めたいと考えている。
|