研究概要 |
本研究は都市緑化の設計や計画の際,樹木の日射遮蔽効果を熱・紫外放射環境として定量的に予測・評価するツールの開発を目的とし,1)CGの樹木を用いた樹冠部の日射透過率のモデル化,2)熱・紫外放射環境シミュレータと樹木モデルの構築,3)数値シミュレータのための都市緑化用樹木のデータベースの作成を行う。このうち当該年度は,1)と2)に取り組み,樹木の形態的な特徴をパラメータとする樹木の日射遮蔽モデルを構築し,都市空間における木陰の熱・紫外放射環境を予測・評価した。 1)CGで再現した樹種(イチョウ,ケヤキ,モミジバフウ,プラタナス,サクラ)の葉の密度が異なる樹木を用いて,樹木の形態と直達日射が樹影へ到達する確率(日射透過率}との関係を数値解析した。その知見を基に,樹種の違いと枝による遮蔽を表すため,既往の葉の密度,分布,角度をパラメータとした式に,A)枝の角度,B)樹冠形状が起因するクランピング係数,C)葉群と枝の配置関係を表す係数を考慮した日射透過率の算出式を提案した。 B)とC)は新たに定義し,B)は日射通過距離の相対分散,C)は葉面積指数の関数として,回帰的にパラメータを定式化し日射遮蔽モデルを構築した。これにより,葉の密度が低いイチョウやケヤキは枝が影響し,密度が高いモミジバフウやサクラは葉と枝の分布が影響することを再現した。さらに,構築した日射遮蔽モデルの精度検証を行い,対象とした樹種の葉の密度の違いが比較可能であることを確認した。 2)既往の3D-CAD対応熱環境シミュレータと,その短波放射解析アルゴリズムを基に紫外放射環境シミュレータを構築し,1)の日射透過率の算出式を樹木モデルへ導入した。そして,実在街区における樹木の樹種,配置,着葉状況の違いによる樹木の日射遮蔽効果を,樹影内の表面温度,木陰の平均放射温度,紫外放射照度として定量的に予測・評価できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に挙げた項目のうち,現在までに1)の樹冠部の日射透過率のモデル化,及び2)既往の熱・紫外放射環境シミュレータへの導入を達成した。これにより,都市空間における様々な形態の樹木への適用ができ,提案した日射透過率の算出に必要な各パラメータが熱・紫外放射環境へ与える影響について感度分析を樹種別に行うことが可能となり,次年度の数値シミュレーションのための樹木のデータベースの検討へつながる成果となった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に提案した日射透過率のモデル式を用いて,実際の都市空間における樹木の日射遮蔽効果を,数値シミュレータにより熱・紫外放射環境として予測・評価するために,設計に有用な樹木のデータベース(DB)を作成する。当初は実務者へのインタビュー調査を基にDBの作成を予定していた。しかし,今年度の解析より,樹冠部の日射透過率に影響する形態は,樹種別に感度が大きく異なることが示されている。したがって,様々な形態の樹木への対応を目指すにはまず,今年度一定として扱った樹齢,剪定による葉の密度・分布の変化についても,それぞれの形態が持つ特徴が,提案した日射透過率の算出式のパラメータに与える影響を検討した上でDBを作成した方が,より汎用性が高まると考える。そこで,樹齢と,実務書を基に密度が異なる剪定樹木をCGで作成し,その影響を分析した上でDBの作成を行うことを次年度の目的とする。
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