研究課題
固体Sbに対して、これまで開発してきた理論的枠組みを適用し、同物質におけるコヒーレントフォノン生成過程を明らかにした。また、固体Siに対してコヒーレントフォノンの観測メカニズムの側からアプローチを行い、同現象に付随した格子振動の振幅について明らかにした。これまでに固体Siのコヒーレントフォノン生成を明らかにするために開発した理論的枠組みを固体Sbにも適用して、その生成メカニズムを明らかにした。特に格子に働く力に対して、照射電場の偏向依存性から生成メカニズムがRaman散乱の選択即に従っていることを示し、照射電場の振動数依存性を調べた。この振動数依存性に対しては現象論的な理論に基づく先行研究により、格子に働く力と誘電関数の虚部が比例関係にあることが示唆されており、本研究により特定のモードの格子振動に対してはそのような関係が見て取れることが分かった。これはその先行研究の妥当性を示しているとともに、必ずしもすべての格子振動に対して期待される関係が成り立たないことを示した。また、固体Siにおいてはコヒーレントフォノンの生成機構はボンドの向きと電場の偏向の関係から簡便に理解できる事がわかっていたが、固体Sbのコヒーレントフォノンもまた同様の考察でその生成機構が理解できることを本研究により確認した。さらに、d軌道を入れた固体Sbの予備的な計算を進め、その影響を調べる準備を行った。固体Siを対象に、格子が平衡点からずれた際の誘電関数変化を評価することにより、特にRaman散乱が関与するコヒーレントフォノンの観測機構に関連したRaman感受率の評価を行った。Raman感受率を評価することで、コヒーレントフォノンの観測を行う際にその存在の傍証となる反射率変化の振幅を見積もることが出来る。実験的に得られている反射率変化と、本研究で計算した反射率変化から、コヒーレントフォノンの格子振動の振幅を見積もった。その結果はこれまでに行ってきた同物質のコヒーレントフォノンの生成機構のシミュレーションから得た値と無矛盾な範囲で一致をみることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
当初は固体Sbにおけるd軌道の計算を進めているはずであったが、想定したよりも計算の収束性への条件が厳しく、かつ計算資源が混んでいたために、数値計算を十分に進めることが出来なかった。この影響を直接受ける予備計算の分やや計画が繰り遅れている。しかしその他の計算の準備状況は当初の計画の通りに進めることが出来たため、全体としてはおおむね順調に進展している。
固体Sbのd軌道を考慮することによる影響の考察と、極性半導体への本研究で開発した枠組みの適用を行う。また、実験家との議論により、多面的に現象の理解を進める。固体Sbのd軌道を入れた場合と、より多様な生成機構を持つと考えられている極性半導体に対して、本研究の理論的枠組みを適用し、特にRaman散乱以外によるコヒーレントフォノン生成のメカニズムを第一原理的に明らかにする。また、本研究の結果を実験結果と突き合わせるうえで、詳細な実験条件と合わせて議論をするべきことが明らかになってきた。実験の前提条件や、試料による個体差なども含めて実験家と議論をすることで、コヒーレントフォノンの生成、および観測メカニズムを明らかにする。
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Journal of Chemical Physics
巻: 137 ページ: 22A527-1,22A527-8
10.1063/1.4739844
日本物理学会誌
巻: 67 ページ: 685,689