研究課題/領域番号 |
12J02358
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮本 亮 北海道大学, 大学院獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 硫化水素 / 知覚神経 / PC12 / cysteine aminotransferase / mercaptopyruvate sulfurtransferase / cystathionine β-synthase / cystathionine γ-lyase |
研究概要 |
硫化水素(H_2S)は哺乳動物の体内で酵素によって産生され、近年では生理的に機能する気体状伝達物質であることが示唆されている。一方、末梢では炎症や痛覚過敏とも関連付けられており、知覚神経のH_2S産生異常が炎症・疼痛疾患の原因であることも考えられる。昨年度、神経モデルの株化細胞であるPC12細胞では3種類のH_2S産生経路のうちcysteine aminotransferase (CAT)とmercaptopyruvate sulfurtransferase (MPST)による連続的な酵素反応によりH_2Sが生じること、またこの反応がシステインとα-ケトグルタル酸存在下でのみ機能することを示した。本年度は、ラットから摘出した知覚神経のH_2S産生経路の特定を試みた。知覚神経ではシステインとα-ケトグルタル酸存在下でのみ顕著なH_2S産生を認め、CATとMPSTの発現が認められたことから、知覚神経もCATとMPSTを介してH_2Sを産生することが明らかとなった。さらに免疫蛍光法により、PC12細胞と知覚神経ではこれらの酵素が主にミトコンドリアに存在することがわかった。CATとMPSTによるH_2S産生活性のpH依存性を調べたところ、細胞質の生理的pHである中性付近では活性は低かったが、ミトコンドリアの生理的pHである弱アルカリ性付近では、肝臓のcystathionineγ-lyase (CSE)および脳のcystathionine β-synthase (CBS)によるH_2S産生活性と同程度であり、pH9.0付近で最大となった。またCATとMPSTによるH_2S産生活性は還元剤濃度の影響を受けることも示した。以上から、知覚神経やその他の末梢神経ではCSEやCBSに代わり、CATとMPSTがH_2S産生酵素として機能し、このH_2S産生がミトコンドリアの内部環度変化に影響を受けることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
知覚神経ではミトコンドリアに存在する酵素を介して硫化水素が生じること、さらにこれらの酵素活性がpHなどの影響を受けることを示した。この成果は知覚神経の硫化水素産生がミトコンドリア内の代謝変化に応じて増減することを示唆するものであり、産生メカニズム解明に寄与する重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは細胞から抽出した蛋白質を用いて実験を行ってきたが、生きた細胞内のリアルタイムでの硫化水素測定は仮説の証明に重要なアプローチであると考える。そのため硫化水素またはその重合体であるポリスルフィドに選択的な蛍光色素を用いたイメージングを実施する予定である。また中枢では末梢と異なる酵素により硫化水素が生じるため、中枢レベルでの硫化水素産生メカニズムについても検討を行う。
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