研究概要 |
1、成果の具体的内容 : 25年度は金ナノ粒子層/SiO_2誘電体ナノコラム層/Sio_2層/銀鏡面層を持つ局所プラズモン共振器の(1)光音響放出を用いた熱伝達特性の評価および(2)光-熱変換を利用した流体駆動に関する研究を行った. 実験(1)では, 金ナノ粒子層に局在した光の吸収が, 周囲流体への熱伝達効率を向上させていることを理論的実験的に実証した. この結果はJournal of ApPlied Physicsで論文として発表している. 実験(2)では, 局所プラズモン共振器の発熱を用いて実際に流体・粒子駆動を試みた. その結果, 光の吸収率が高い局所プラズモン共振器は流体を強く駆動するのに対し, 光の吸収率の低い試料では全く流体を駆動しないことが分かった. このことは局所プラズモン共振器による空間的時間的にフレキシブルな流体駆動の実現可能性を示すものである. また比較的光の照射時間が長いCWレーザーを用いた場合, 生じる流れは対流および流体の体積膨張によるものが主であることが分かった. 2、意義 : 実験(1)における試料の発熱と周囲流体への伝熱特性の評価は, 今後温度変調による流体駆動を実現・解析するために必要である. 特に理論的検証で行った光吸収分布計算は, この構造全体の伝熱特性を議論する上で必要な情報を与える. また実験(2)は局所プラズモン共振器を用いた流体駆動を実証したことに加え, レーザー照射方法変更の重要性を示唆し, 次年度の研究方針決定に大きく役立った. 3、重要性 : 近年, マイクロ流路を使った生体分子等の分析機器は実用化に向けて研究が進んでいる. この中で, 流路中の流体の駆動は大きな課題である. 局所プラズモン共振器は温度勾配を利用したマイクロ流体駆動を目指した, 可動部を持たない壊れにくい流体駆動要素として大いに期待できる. 本研究の結果は局所プラズモン共振器の発熱箇所や熱伝達特性を詳しく明らかにし, さらに熱によるマイクロ流体駆動の実現可能性を示したという点で重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度の計画では, ナノコラム構造と同じスケールの流路をPDMSで作製し薄膜近傍の流体の流れを可視化することと, この流路を使って流体の熱による駆動の様子を観察することを目的としていた. 25年度の実験では実際に局所プラズモン共振器上にPDMSでマイクロ流路を作製することに成功した. さらに局所プラズモン共振器の光熱変換に起因する流体駆動の様子を観察することに成功し, 発熱め時間的なオーダーと流体駆動に対する知見を与えた. よって25年度は研究計画を遂行できたと言える.
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今後の研究の推進方策 |
25年度に実施した流体駆動実験では, 比較的光の照射時間が長いCWレーザーを用いて熱を発生させた. その結果, 主に対流および流体の体積膨張によって流体が駆動されていることがわかった. そこで, 次年度はパルスレーザーを照射し, nsオーダーの短い時間で発生した熱が流体を駆動する現象に着目する. また, 試料作製に用いている動的斜め蒸着法はナノ構造を簡単に変化させることができる. 我々はこの作製手法を用いて作製できる新規なナノ構造をもつ局所プラズモン共振器を思いついた. この構造を用いれば, 局所プラズモン共振器から周囲流体への熱伝達をnmオーダーで制御できることが期待される. そこで次年度は新規ナノ構造局所プラズモン共振器を作製し, これを用いて今までにない流体駆動を実現する予定である.
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