研究課題/領域番号 |
12J02397
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
沢木 拓也 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | ルテニウム / ピリジル配位子 / 水素発生 / 光触媒反応 |
研究概要 |
今年度は、光増感部位となるRu(II)錯体部位、還元反応の触媒部位となるPd (II)錯体部位をテトラピリドフェナジン(tpphz)により連結し、水素発生反応の検討を行った。本研究では、Ru(II)錯体部位の支持配位子として剛直な2,2'-ビピリジン(bpy)、もしくは柔軟なトリス-2-ピリジルメチルアミン(TPA)を有する、2種のtpphz架橋Ru(II)-Pd(II)複核錯体と、参照錯体として、Pd(II)を有さないそれぞれに対応するRu(II)-tpphz単核錯体を用いた。これらの錯体を水 : メタノール混合溶媒に溶解し、電子供与体としてトリエチルアミンを加え、可視光を照射した際に発生した水素の量をガスクロマトグラフィーによって測定した。その結果を比較すると、Ru(II)錯体部位の支持配位子としてbpyを用いた際により多くの水素が観測され、高い触媒能を示した。さらに、還元反応の触媒部位であるPd(II)錯体部位を持たないRu(II)-tpphz単核錯体も、水素発生反応を触媒することが明らかになった。この時、光照射によってtpphz配位子のπ-π^*遷移に由来する吸収帯が減衰する変化が、紫外可視吸収スペクトルにおいて観測された。得られた光反応生成物は、光照射を止めて暗所に放置すると元の錯体へ戻ることが、紫外可視吸収スペクトルと^1H NMRスペクトルの変化から明らかになった。また、このときのガスクロマトグラフィー測定の結果、光反応生成物が元の錯体に戻る際に水素が発生していることが確認された。したがって、この光反応生成物は水素発生反応の中間体であると考えられる。光反応で生成した中間体の^1H NMRスペクトルは、tpphz配位子に帰属されるシグナルが、元の錯体と比べて高磁場シフトしており、tpphz配位子のπ共役系が変化していることが示唆された。さらに、この中間体から元の錯体へと戻る過程における速度論的同位体効果(K_H/K_D)は、0.041であった。これらの結果より、生成した中間体は、tpphz配位子の中央ピラジン部位が2電子/2プロトンが関与する光誘起プロトン共役電子移動により還元され、ジヒドロピラジン構造を形成したものであり、この中間体からの分子内H-H結合形成過程が律速段階となる反応機構が推測される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ru(II)単核、Ru(II)-Pd(II)異種複核錯体を触媒とした光触媒的水素発生反応を観測し、Ru(II)錯体部位の支持配位子としてより剛直な構造を持つ化合物を用いることで、高い触媒能を示すことが明らかになった。一方、還元触媒部位として金属錯体を用いずに水素発生反応が行えることが明らかとなり、高価かつ希少なPdやPtを用いない優れた水素発生触媒か開発できる見通しがたった。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に見いだした有機分子触媒部位を有する水素発生触媒に関して、より詳細な研究を行う計画である。この水素発生反応において、水素を放出する前の中間体と考えられる化合物が観測されており、この中間体からの水素放出過程について、速度論的実験や^1H NMRスペクトル測定、ESRスペクトル測定などにより詳細を明らかにする。さらに中間体の生成過程の反応機構についても、各種スペクトル測定による考察を行う。また、現在までに溶媒中の水の割合が反応速度に影響することが明らかとなっており、より高い活性を示す溶媒条件を検討し、さらなる触媒活性の向上を目指す。これらを通じて、この新しい水素発生触媒系の反応機構を推定し、安価な非金属水素発生触媒の開発への基盤とする。
|