研究課題
本年度はこれまでに実施した「死の顕現化に伴う脳内処理過程と随伴的防衛反応の検討」に関する社会神経科学実験の結果をまとめ、国際誌へ投稿した。研究の特色や意義は以下2点に集約される。1.死の潜在的不安を抑制する無意識的な神経プロセス近年、死の潜在的不安の高まりは、ポジティブ感情へと積極的に方向付ける一種の心理的ホメオスタシスを生じさせることが報告されている。そこで、この防衛反応の生起に至るまでにいかなる神経プロセスが介在しているのかに焦点を当て、研究を実施した。実験の結果、閾下刺激による死の顕現化の後、ポジティブな情報を求めやすいことが確認された。しかし、その関連は死に関する刺激提示中の右腹外側前頭前皮質の活動が低い者において生じており、高い者において有意な関連は見いだされなかった。すなわち、死の潜在的不安を抑制する無意識的な神経プロセスが効果的に機能するかどうかに応じて、防衛反応が補填的に生じている可能性を示した。2.死に関する刺激の処理と防衛反応に介在する不安関連神経活動死の顕現化に関するモデル(存在脅威管理理論)が社会心理学の領域で提唱されてから、はや20年以上が経過した。"死"という刺激の特殊性は現在も議論の的になる。このような議論の見解は多様であるものの、議論の大枠において死の顕現化が不安状態に根差していることが一貫して指摘されている。そこで、本研究では不安と関連のある神経活動に着目し、さらに、不安特性と関連の高いパーソナリティである行動抑制システム(BIS)に着目して検討した。実験の結果、BISの高い者は死に関する刺激提示中に不安関連の処理を反映する神経活動が高いことが確認され、さらに防衛反応はこのような神経活動と密接に関連していることが示された。すなわち、死に関する刺激の処理により不安状態に導かれ、その状態を緩和させるために防衛反応が生じている可能性を示した。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度にして、「死の顕現化に伴う脳内処理過程と随伴的防衛反応の検討」に関する論本を国際誌に投稿出来ていることが一番の理由である。また、論文査読のプロセスを通して研究の問題点や新たな視点などが浮かび上がったことは収穫である。そして、それらの改善点を考慮し、現在新たな実験を実施している。
本研究課題の最大の問題点は、死の顕現化に伴う脳内処理過程の検討において脳内深部の活動を充分に捉えることが出来ていない点である。これは、これまでに実験機材として近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy : NIRS)を利用していたため、前頭皮質の検討しか出来ていなかったためである。これに関する改善点として、現在、核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging : MRI)を用いた実験を実施している。これにより、死の顕現化による脳内深部の活動を測定し、モデルの妥当性を高める。
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Social Cognitive and Affective Neuroscience
巻: (in press)
Asian Journal of Social Psychology
巻: 16 ページ: 55-59