研究概要 |
本年度は, これまでに実施した「死の顕現化に伴う脳内処理過程と随伴的防衛反応の検討」に関する近赤外線分光法(NIRS)を用いた実験結果をまとめ, 国際誌に投稿した(Neuroscience Lettersに掲載)。また, NIRS実験では, その機材の性質上, 脳内深部に関する検討が不十分であったため, 新たに機能的磁気共鳴画像法(fMRI)と用いた実験に取り組んだ。NIRS実験およびfMRI実験の結果から明らかになったことは以下の2点である。 1. 死関連刺激の処理に係る扁桃体(Amygdala)と右腹外側前頭前皮質(rVLPFC)の相互作用が, 従来示されてきた死の顕現化に伴う防衛反応(たとえば, 排他的行動)を予測すること 2.1のメカニズムに関して, 快情動や報酬系の処理の充進が密接に関与していること 多くの脅威研究でAmygdalaは脅威情報を感じ取る過程, rVLPFCはその脅威反応を抑制する過程に関与することが示され, Amygdala-rVLPFCの相互作用が確認されている。本研究課題において, この活動に着目し検討を行った結果, 死関連刺激の処理時にAmygdalaの活動が高く, rVLPFCの活動が低い者において, 防衛反応が強く生じることを示した。加えて, Amygdalaの活動が高い者は, 快情動刺激に対する感受性が高まることを示し, このプロセスが防衛反応を積極的に促進することを明らかにした。 これまで, 死の顕現化に伴う防衛反応に関する研究は, 社会心理学の領域で進められてきたことから, 本研究のような脳機能画像法を取り入れた研究は少ない。そのため, 認知・神経科学的アプローチを取り入れた本研究の成果は, 先行研究に新たな視点・解釈を与えうる点において非常に有意義であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はMRI実験に取り組み, 実験的に死の不安を喚起させることで内的プロセスにどのような影響があるのか, その内的プロセスがどめような行動を引き起こすのかについて一連の検討を網羅的に行った。MRI実験で得られた結果は非常に興味深く, 現在, 国際誌への投稿の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究課題の遂行により, 死関連刺激の処理に関わる神経基盤やその後の防衛反応が生じる神経機構にっいて明らかになりっつある。特に, 死関連刺激の処理後に報酬処理関連の脳機能が充進し, それに伴い防衛反応などの行動がアウトプットとして生じる可能性が考えられる。今後の研究計画では報酬処理関連の行動を直接的に把握できる指標を導入し, さらに脳機能の観点から多角的に検討する。
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