研究概要 |
当該研究の目的は希薄気体中を物体が非定常運動することによって生じる履歴の性質とその影響を調べることである.履歴の効果は通常の流体力学の枠組みで古くから研究されているが(例えばバセット履歴項),希薄気体における履歴の研究は気体分子間の衝突が無視できるほどに希薄な極限を除いて未だ成されていない.平成24年度は当該研究に関する以下の二点に取り組んだ. 1希薄気体の移動境界問題の研究当該研究が対象とする気体中の物体の非定常運動を扱うためには,希薄気体の移動境界問題を解析する必要がある.通常の流体力学の移動境界問題と異なり,希薄気体の移動境界問題では気体分子の速度分布関数に種々の特異性が現れるという困難さがある.移動境界問題特有の性質に注目するため,支配方程式としてボルツマン方程式のモデルであるBhatnagar-Gross-Krookモデルを採用し,形式的な議論をベースに速度分布関数の特異性の発生過程を明らかにした.これらの特異性は従来の計算手法では正確に扱うことが出来ないため,今回特性線積分法をもとにした新しい計算手法を提案した. 2振動平板によって誘起される希薄気体流当該研究の最終目標は,希薄気体流と物体の運動の連成問題の解析である.これに先立ち,垂直方向に強制振動する境界(振動平板)が誘起する流れの性質を調べた.気体の圧力が常圧程度でも,振動平板の振動数が気体分子同士の平均衝突頻度に比べて無視できないほど大きいとき(高周波数振動),気体は希薄とみなさなければならない.このような条件の下で,(1)有限振幅の振動平板による非線形音響波の遠方への伝播と(2)振動平板と静止平板からなる平行二平板間の気体の振舞の二種類の希薄流れを,1で提案した計算手法を用いて解析した.
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